八神来夏君。

彼が登校する日はいつもこうだ。

しかも、朝一から八神君を見掛けるのはかなりレアな方であり、そんな時に遭遇出来た子達は、皆口を揃えて今日はラッキーな一日になると言っていた。


暴力沙汰、女性問題、お酒に煙草。

思い付く限りの非行を彼はやってのけているのに、八神君の人気は後を絶たない。

寧ろ、そんな危険極まりない彼が魅力的だと。彼の粗暴が長所になり始めている始末。

無論並の男子達は彼に一切近付こうとしない。
女子も基本的に近付かないけど、彼に告白したという話は何度か聞いたことがある。 

「ああ、やっぱり八神君って怖いけど顔面芸術的過ぎる。本当に九条会長に匹敵する人ってこの学園では彼ぐらいしかいないよね」

「あんな方に迫られたら、おそらく私は即受け入れるわね」

そして、私の隣にいるクラスメイト達も隠れ八神ファンであり、朝から物凄いことを言い続けるお嬢様方を私は遠い目で見守った。


結局、八神君の非行は生徒会でも手に負えないという結論に至ったので、余程の事がない限り、私が彼に関わることはないのだろう。

八神君もあんなキスをしてきたくせに、あれ以降すれ違っても私には目もくれないので、やはりあれはただの戯れだったんだと。

分かってはいたけど、何だかそれが無性に腹立たしく思えて、文句の一つや二つ言いたくなる。

でも、こうして関わらなければ、安定した日常を迎えられるので、そんな日がずっと続けばそれでいい。



__そう思っていたのに。