「ねえ、今の何?」
その時、背後から突然誰かに話しかけられ、肩が大きく震える。
しかも、思い当たる人物の声に私は冷や汗を垂らしながら、恐る恐る後ろを振り返った。
「……あ、亜陽君」
やっぱり。
そこに立っていたのは、眉間に皺を寄せながら日誌を手に持つ彼の姿。
しかも、最悪な場面で出会してしまったことに、私は内心焦りながらどうこの場を切り抜けようか頭をフル回転させる。
「えと……。昨日八神君の非行現場に遭遇して注意したら、目を付けられたと言うか……」
そこまで至るのに色々あり過ぎて、ましてや真実なんて到底口にすることが出来ず、その先の言葉を探ってみるもなかなか後に続かない。
「美月、ちょっとこっち来て」
そんな言い淀む私の手首を亜陽君は不意に掴んできて、そのまま私を引っ張り職員室とは反対方向に歩き出していく。
「あ、亜陽君どうしたの?日誌は提出しなくていいの?」
「いいから」
こんなに強引な彼は初めてで。
不安気にぶつけた私の質問を亜陽君は無表情で一掃すると、それ以上口を開くことなく、私はそのまま空き教室へと連れられてしまった。