その時、突如誰かに腕を引っ張られ、バランスを崩した私は後ろへよろけると、いつの間にやら背後に立っていた来夏君の厚い胸板にそのまま体を預けた。
「おい。てめえ、まだ人の彼女にちょっかい出してんのかよ。いい加減くどいんだよ」
「これ、ただのコミュニケーションだけど。てか、君がそれ言う?そんなに束縛強いと美月に嫌われるよ」
「その台詞、お前だけには言われたくねーわ!」
それから、こちらも相変わらず顔を合わせれば一触即発な雰囲気に、私は段々と気恥ずかしくなってきて身を縮め込ませる。
そして、こうなると決まって突き刺さってくる周囲の視線。
あれから、私と亜陽君が別れた話は学校中に広まり、続けて私と来夏君が付き合い出した話も広まっていった。
それによって、亜陽君の人気は更に上昇し、反対に、私は影で後ろ指を刺されるようになってしまった。
確かに、傍から見れば、誰もが羨むハイスペックな彼に十分愛されているにも関わらず、別の男性に走るなんて悪女もいいとこ。
しかも、その相手は亜陽君と負けじ劣らずの人気を誇る来夏君。
そして、今でもこうして二人は公衆の面前で歪み合っているので、当然ながら女子生徒達の反感を買うことに。
クラスでも私と話をしてくれる人が減ってしまい、ある時は、副会長としての資質を問われてしまった時もあった。
これも全部自分がまいた種だと真摯に受け止めてはいるけど、やはり精神的に堪える。
でも、自分の選択に後悔はないし、渚ちゃんや河原木君がいて、他にも理解を示してくれる人達がいるので、ここは毅然とした態度を貫こうと。
そう、自分に何度も言い聞かせながら今日に至る。
とりあえず、未だ歪み合いが続くこの状況を何とかするため、私は二人の間に割って入った。
「はい、そこまで。二人ともお互い様だから、もうやめて」
そして、冷静に指摘した途端一瞬で大人しくなり、事態が収束したことに小さく胸を撫でおろした。
「それはそうと、作業終わったから誰か確認してくんね?」
「あ、うん。それじゃあ、私行くね」
それから、何事もなかったように仕事の話に戻ると、私は一旦亜陽君と別れ、来夏君に連れられて会場の入り口へと向かった。