「……美月。今ここでキスしていい?もう触れられないなら、せめて最後にけじめとして一回だけ」

それから、暫しの間和やかな空気が流れる中。
突如真顔で迫ってきた亜陽君の要求に、私は一瞬動きが止まる。

「え、えと……。あの……」

確かに、これまで亜陽君とは散々キスをしてきたけど、八神君に気持ちが決まった以上それはどうなのかと思う。

けど、けじめと言われてしまっては、無下にするのも何だか気が引けてしまい。
返答に困った私は口ごもっていると、突然顎を引かれ、強制的に視線を合わせられてしまった。

「ま、待って亜陽君。まだ気持ちの整理が……」

それから、拒否権など与えさせないと言わんばかりに、亜陽君はもう片方の手で私の肩を抱き、動きを封じてくる。

そして、徐々に接近してくる彼の透き通った綺麗な薄青い瞳は、相変わらず私の心を大きく揺さぶってきて。

まるで催眠術にでもかかったように目を逸らす事が出来ない。


……ああ、ダメだ。

また私は……。


頭では警告しているのに、体が全く言うことを聞いてくれず、そんな弱くて卑しい自分を嘆いた直後。

亜陽君の唇が私の唇と重なり、思わず肩が小さく跳ねる。

このまま彼の体を押し除けようかと思ったけど、唇の隙間から無理矢理入り込んできた舌が、執念深く絡みついてきて全身に力が入らない。

そのまま動けずにいると、今度は下唇を甘噛みしてきたり、角度を変えては蜜を吸うように私の唇に貪りついてきたり。

これまでとは全く違う、まるで八神君のような荒々しいキスに思考力を奪われ、いけないと思いつつも体は素直に反応してしまう。


「やっぱり、美月はこんな感じで乱暴にされるのが好きなんだ」

暫くしてからようやく唇を解放してくれた亜陽君は、小刻みに肩で息をする私を満足そうな目で眺めると、悪戯な笑みを浮かべながら耳元でそっと囁く。

違うと否定したかったけど、満更ではないのは確かなので、私は恥ずかしさについ顔を背けてしまった。