それから暫しの歓談の後。
病室を後にしようと椅子から立ちがる父親の服の裾を、私は咄嗟に掴む。
「ねえ、お父さん。私、亜陽君にも会いたい。彼ともちゃんと話がしたくて……」
例え彼の愛が歪んでいたとしても、私を一身に想ってくれていることには変わりないので、やはりここはしっかり向き合わなければいけないと。
そう心に決めたことがしっかり伝わったのか。
私の真剣な想いに対して父親は頷くと、彼にも連絡を入れると約束してから、病室を出ていった。
その場に一人取り残された私は、徐々に高鳴っていく鼓動を落ち着かせる為に小さく深呼吸をする。
果たして彼はここに来てくれるのだろうか。
もしかしたら、家出の話は九条家にも伝わっているかもしれない。
そして、勘の良い彼なら、私が取った行動なんて全てお見通しなのかもしれない。
もしそうだとしたら、亜陽君はまた私を縛ろうとするのだろうか。
あまり深くは考えないようにと心掛けてはいるけど、時が進むにつれて緊張と不安が押し寄せてくる。
そうこうしていると、不意に病室をノックする音が聞こえ、そこでふと我に返る。
それから、一先ず応答してみると、扉が開き、そこには制服姿の亜陽君が立っていて、私は驚きのあまり目を大きく見開いた。
両親が病室を出てからそこまで時間は経っていないのに、まさかこんなに早く彼が来てくれるとは思いもよらず。
この時間帯はまだ授業中なのに、もしかしたら、わざわざ早退して来てくれたのだろうか。
予想以上の早さに内心かなり焦っているけど、何とかそれを悟られないよう平静を装い。とりあえず、彼を笑顔で迎え入れることにした。