それから、電車に揺られること約二時間近く。
到着したのは、都内から外れた山の中のコテージ。
気温は都心部より五度くらい低く、所々に雪化粧が見えて、一足早い真冬の景色が目の前に広がっている。
八神君の家は学校から近いので見つかる危険性もあるけど、これだけ離れた場所なら伸び伸びと一日を過ごせそうで。
改めてここへ連れて来てくれた彼に感謝をして、私は荷物を下ろすためにコテージの門の前に立つ。
貸別荘というだけあり、周りにはコテージ以外建物はなく、人気も全くない。
大自然に囲まれる中、今ここにいるのは八神君と私だけ。
スマホの電源も切ってあるし、私達を邪魔するようなものは何一つなく、本当に別世界へと逃げ込んだような感覚に、私は軽い感動を覚えた。
聞いたところによると、このコテージには基本人が来ることはなく、食材やお風呂などは全て完備されていて、必要がある時だけ管理人を呼ぶシステムらしい。
宿泊費は貯めたバイト代で支払ってくれたらしいけど、これは私の我儘なので、半分は流石に無理だけど、払える分のお金全てを無理矢理彼に手渡した。
コテージの扉を開くと、中は吹き抜けの二階建て構造となっており、壁一面に窓が張り巡らされ、中はとても明るかった。
建物も新築のようにとても綺麗で、木目調のお洒落なデザインが私の好みを刺激し、人目でこの場所が気に入った。
一先ず、空気を入れ替えるために窓を開けると、冷たい風と共に仄かに伝わってくる土と緑の香りが気持ちを落ち着かせてくれる。
「ああ、腹減った。そういえば、朝から何も食ってねーな」
暫く自然の匂いを満喫している私とは裏腹に。
八神君は全く興味を示すことなく、リビングの奥に設置されたカウチソファーに身を投げた。
言われてみれば、時刻は既に午後一時を回ろうとしているし、何か作れるものはないかと。私は冷蔵庫を開けて食材を確認する。
中は沢山の野菜やお肉や魚が入っていて、調味料も充実しているし、技術があれば何でも作れそうだった。
「どうしようかな……。寒いから鍋にしようかな」
色々な食材を切ってただ煮込むという、調理方法は至ってシンプルだけど、味は保障されている究極のメニュー。
これだけ食材が豊富だと鍋の味もさらに期待出来そうで、私は即決すると、とりあえずテーブルに必要な物を揃えていく。
「俺も手伝うよ。とりあえず、これ切ればいいのか?」
すると、いつの間にやら私の隣に立っていた八神君は、シンクで手を洗い終えると、慣れた手つきで準備をし始める。
「八神君って料理するの?」
「一人暮らしだから当たり前だろ。自炊は基本だ」
なんということだろう。
まさか、彼の口からそんな言葉が出てくるなんて。
てっきり、料理なんて無縁な生活をしているのかと思いきや、自炊が基本とは。
下手したら私よりも彼の方が上手い気がして、何だが八神君の隣で調理をすることに気が引けてきた。