貸別荘だなんて、果たして未成年だけで宿泊が許されるものだろうか。
一人は停学処分を食らった自宅謹慎中の男子で、もう一人は家出少女。
そんな二人が親の承諾なしに勝手に宿泊するなんて……。
いや、ダメでしょ。
絶対にこれはダメなやつでしょ。
もしバレたら、八神も私も停学だけでは済まされない気が……
「さっきから何青ざめた顔してんだよ?」
暫く呆然としたまま揺れる電車の窓の外を眺めていると、一向に反応を示さない私の顔を怪訝な表情で覗き込んでくる八神君。
「だって、高校生二人だけで宿泊なんて、下手すれば通報されても可笑しくないよね?」
「ああ。それは全然余裕。昔からうちと縁ある場所だから自由に使えるし、こういうの珍しくねーし」
そして、私の懸念をあっけらかんとした態度で一掃すると、最後の聞き捨てならない台詞に私は思わず顰めっ面を向ける。
「つまり、他の女の子と何回か来たことあるの?」
「ちげーよ、友達とだ。女と行くのは美月が初めてだよ」
すると、八神君の“初めて”という言葉によって気持ちが一気に舞い上がり、我ながら単純だと思いながらも、それを表に出さないよう必死で平静を取り繕う。
「……というか、八神君は色々聞いてこないんだね。家出のことも、停学処分になったことも」
急に電話を掛けた時もそうだったけど、私が家出すると言っても彼は深く追求することなく、二つ返事をしただけで終わってしまった。
今でもそのことには一切触れて来ないし、白浜さんのことも話してこない。
それはある意味とても助かるけど、全く干渉してこないのも何だか少し不安になってきて、私は恐る恐る彼を見上げる。
「あいつらのやることなんて想像つくし、《《俺にとっては》》停学なんて大したことねーし、寧ろ好都合だから。それに言っただろ?俺はあんたの全てを受け止めるって。だから、細かい事はいちいち気にすんな」
そう笑顔で話す彼の言葉が心と体にじんわりと染み込んできて、ほんの少しだけ涙腺が緩みそうになった。
やっぱり八神君は八神君のままで。
そんな彼の側にいることが、とても心地よくて、心強くて、幸せで。
余計なことを考えている時間が何だか勿体なく思えてきた私は彼の言う通り、細かい事は金輪際気にする事はやめて、八神君らしく今を全力で楽しむことにした。