すると、八神君は突然私の肩に手を回してきて、そのまま優しく抱き寄せてきた。

「そんなに俺に会いたかったのか?」

そして、わざとらしく色を含んだ声で囁かれ、改めて指摘されると、やはりこの上なく恥ずかしい。


私は黙って頷くと、不貞腐れ気味に彼を見上げた途端、視界には八神君の満足そうな表情が広がっていて。
暫く見惚れていると、ゆっくりと彼の唇が降りてきて、私の唇に優しく重なる。


この瞬間をどれ程待っていたことか。

あれからたった数日しか経っていないけど、それだけで気持ちは枯渇してしまい、触れたい欲求が溢れ過ぎてどうにかなってしまいそうだった。


だから、カラカラに干からびた体に注がれる彼の温もりは格別で。

徐々に満たされていく心に、私も八神君の首元に抱き付いて自らも彼を求める。 


「……あー。とりあえず、ここで止めるか?これ以上続けると俺朝からあんたを食うことになるけど?」

そのまま舌を絡ませながら、どんどん深いキスへと入り込む最中。八神君は私から唇を離すと、何食わぬ顔でぽつりと呟いた一言に危機感を覚えた私は、慌てて彼から離れる。


「っで。今日は何処行くんだ?」

とりあえず、少しだけ熱が収まったところで一息ついていると、突如投げられた質問に、私は目が点になった。

「何処って……。八神君、今自宅謹慎中でしょ。勝手に外出歩いちゃ不味い……」

「それ、俺に言うか?」


確かに。

 
つい真っ当なことを言ってしまったけど、彼にそんなものは通用しないと。

これまで嫌って程思い知らされてきたので、私はそれ以上口を開くことを止めた。


「折角逃げ出したんだし、どうせなら自由気ままに行きたい場所でも行けば良いだろ。まあ、このまま家にいて美月と一日やるのも全然構わな……」

「ち、ちょっと待って。今探してみるから!」

すると、私が黙っているのを良いことに、再び彼の腕が絡みついてきて、そのまま押し倒されそうになるのを済んでのところで制止する。


本当に少しでも油断していると、すぐ狩られてしまいそうで。

つくづく彼の獣っぷりをこの身で体感すると、これ以上八神君のペースに飲まれないように、私は慌てて鞄からスマホを取り出した。

それから、デートスポットで検索をしてみたものの、出てくるのは既に行ったことがある場所ばかりで、変わり映えしない検索結果に小さく肩を落とす。

八神君と初めてのデートなので、どうせなら行ったことがない場所がいいと思ったけど、そうなるとハードルがかなり上がり、これだけで半日かかりそうな気がする。


「うーん、行きたい所を探すって難しいね。強いて言うなら今は静かな場所に行ってみたいけど」

「それなら、うちがよく使っている貸別荘に行くか。多分今なら予約そんなに入ってないだろうし」

すると、何処かで聞いたことがある話に、私は動かしていた指をぴたりと止める。

「え?八神君それって、つまり宿泊……」

「予約取れたから、行くぞ」


そして、彼の言うことをもう一度確かめようとした矢先。

瞬時に段取りを組んだ彼の行動の早さに唖然としていると、私の返事を待たずして、八神君はさっさと出掛ける準備を始めた。