父親の言うことは全部分かっている。
私のしている事が、この家をどれ程脅かしているのかも。
だから、認めてくれとは言わない。
でも、私の本当の気持ちを知って欲しい。
私にもしっかりと意思があることを、認識して欲しい。
というか、それが当たり前のこの時代。
いくらお家の為とは言えども、そんな考えすら持つことを許されない環境は、やはり異常なんだと。
改めて我が家の闇を目の当たりにすると、私は全てを振り切るように拳を強く握りしめる。
「もういい加減にして!そっちそこ私を何だと思っているの?私の将来なんて誰も目を向けてくれないし、何で主張すら許されないの!?」
そして、思いの丈を全て吐き出すと、感情が昂るあまり、じんわりと目頭が熱くなってきた。
暫しの間流れる沈黙。
おそらく、ここまで私が反抗したことはこれまで一度もなかったと思う。
それをどう受け止めるのか。
一向に反応を示さない両親の様子を伺っていると、不意に父親はソファーから立ち上がり、徐にこちらの方へと近付いてきた。
「それじゃあ聞くが、お前のやりたい事はなんだ?そこまで言うなら、将来のことを考えているんだろ?」
「……そ、それは……」
そして、思わぬところで痛い所を突かれてしまい、つい顔を顰めてしまう。
流石にそこまでの答えは用意していない。
というか、まだ見出せていない。
確かに、ここまで強く反発するなら、それ相応の理由が必要なのかもしれないけど、今の私の原動力は全て来夏君に対しての想いだけ。
それで十分だと思っていたけど、両親を説得するにはそれだけではダメだと。
自分の考えがいかに甘かったか、今更ながらにここで思い知らされ、私はこれ以上何も言う事が出来なくなり、視線を落とす。
「全く。考えなしにただ情に流されてここまで掻き乱すとは。お前のせいで飛んだ恥をかかされたもんだよ。倉科家の人間として、もっと身の振り方をわきまえろ」
そんな私を心底呆れたような目で眺めると、父親は吐き捨てるようにそう言い残して、目頭を押さえながら書斎へと行ってしまった。
「本当にあなたは私達を苦しめたいの?もう二度とそんな馬鹿な事は言わないでちょうだい。亜陽君にもよく謝っておくのよ」
その後ろ姿を黙って眺めていると、深い溜息と共に、父親と同様に蔑むような目を向けてくる母親。
みんな同じだ。
亜陽君も、父親も、母親も。
そもそも、うちは全面的に九条家の言いなりだから、ここには誰も味方がいないのは始めから分かっている。
だから、声を大にして言いたかった。
”私は両家の操り人形ではない”と。