「美月はないのか?将来の夢」

すると、唐突に聞かれた八神君の何気ない質問に、思わず眉がピクリと反応する。

「これまでずっと亜陽君のお嫁さんとして教育されてきたから、真剣に考えるようになったのはつい最近なの。だから、私はまだ何をすればいいのか全然分からなくて……」

はっきりとした信念を持った彼の前では差が浮き彫りになってしまい、私は恥ずかしさのあまり身を縮こませた。

「いいじゃん。そうやって必死に足掻いてるんだろ。美月はよく頑張ってるよ」

すると、八神君はいつになく優しく微笑んでくれて、私の頭をそっと撫でる。

その温かさが私の一番弱い部分に触れた瞬間、自然と一筋の涙が零れ落ちた。

「え?なに?どうした?俺、何か悪いこと言ったか?」

突然のことに八神君は戸惑いながらも、大きな掌で零れ落ちる涙を優しく拭い取る。

「違うの。ごめんね。誰かにそうやって認めてもらうのが凄く嬉しくて」

渚ちゃんの時もそうだったけど、これまでずっと抑圧されていた為、許容してくれることが嬉しくて、どうも涙脆くなってしまう。


そんな私を黙って見守っていた八神君は、不意に私の背中に手を回し、額にそっと口付けを落とした。


「美月には俺が居るから。俺がお前の全てを受け止めるから」


それは、今までで一番欲しかった言葉。


“委ねる”のではなく、”受け止める”。


亜陽君とは違う。
私自身をしっかりと見てくれて、それを受け入れてくれる愛しい人。


そんな掛け替えのない人を、私はこれからも大切にしたいし、絶対に失いたくない。



__だから、動かなくては。



“自分の幸せ”を追い求めるためには、この鎖を断ち切らなくてはいけないから……。