「両想いになったらするだろ普通?」

「しません。全部が全部八神君の“普通”にしないでください」


それから、乱れた服を正してリビングのソファーに腰掛けると、未だ納得いかないのか。
尚も迫ろうとする彼を牽制するため、ピシャリと物申した。


そして、何気なくリビングに置いてあった本棚に目を向けると、そこには難しい用語が書かれた専門書がずらりと並んでいて、思わず二度見してしまう。

「八神君って、本当に努力家なんだね」 

深く知り合う前までは想像も出来なかったけど、彼の裏側を改めて知った今。つくづく人は見掛けで判断してはいけないことを思い知らされる。


「俺はこういう性格だから将来は経営者一択しかねえから。家業がどうなるか分からないけど、何に置いてもその知識は必要だから、今のうちに詰め込もうと思って」
 
そう答える八神君の表情は、とても凛としていて。

自分よりも遥か先を歩く彼には、やはりまだまだ追いつけないと痛感した。


けど、今は劣等感というよりも、純粋に尊敬する気持ちと、愛しさで心がいっぱいになり、私は少しだけ彼との距離を縮める。