「ひゃあ!」
そう思考を巡らしていた矢先。
不意に八神君の冷たいピアスと湿った唇が首筋をなぞり、今度は色気も何も無い変な声が勢いよく飛び出した。
「もう余計なこと考えるな。今はこの感覚に集中しろよ」
そして、熱のこもった甘い言葉を合図に、首筋、耳の裏、頬、鼻筋と。
順繰り八神君の唇が私の唇へと進んでいく。
その動きはとてもゆっくりで。
じっくり味わっているのか、それとも弄んでいるだけなのか。
兎に角、弱い刺激を与えられ続けることにそろそろ我慢の限界を迎えた私は、訴えるような目で彼を見上げる。
その直後、あっさりと私の唇を奪っていく八神君。
けど、これまでの食らいつくような激しさはなく、私の呼吸に合わせた、丁寧で優しいキス。
唇の隙間からぬるりと侵入してくる舌も荒々しさはなく、包み込むように絡み付いてくる。
お陰で邪念はすっかり消え去り、今私を支配するものは快感と幸福感だけ。
だから、このまま身を委ねてしまえば、全てを忘れさせてくれるような。
そんな気がして、私は降り注がれる熱を一身に受け入れようと心に決めた。