もう、諦めよう。
八神君の言う通り、良い子ぶったって無駄。
やっぱり、どんなに言い訳をしたって私は乱れてる。
背徳感や、正義感やらそんなのはどうでもいい。
今思うことはただ一つ。
私はもっと来夏君に触れていたい。
その時、正午を告げるチャイムが鳴り響き、そこで彼の動きがピタリと止まる。
「あー……。流石に飯は食わねーとな。じゃあ、あんまり無理すんなよ」
そして、まるで興醒めしたようにあっさり私から離れると、保健室の鍵を開け、何事もなかったようにさっさと部屋を出て行ってしまった。
その一連の流れに置いてけぼりを食らった私は、呆然としながら保健室の扉を見つめる。
これ以上何もされずに済んだのは良かったけど……。
……なんだろう。
少し腑に落ちない。
………。
…………いや。
私は一体何を考えているのだろう。
ふと我に返ると、一つ咳払いをしてからベッドから起き上がった。
今思えばあのタイミングでチャイムが鳴って本当に良かったと思う。
もし、その先まで続けていたらどうなっていたことか。
あのまま彼に溺れてしまえば、きっと取り返しのつかないことになる。
そうなったら、おそらく私は……。
「ダメだ!忘れよう!」
気を抜くと再びあらぬことを考えてしまうため、私は喝を入れる為に自分の両頬を強く叩く。
兎に角、ここに居るとまた彼の熱を思い出してしまいそうで、逃げるように保健室を飛び出すと、そのまま教室へと向かった。