それから程なくして審判のホイッスルが鳴り、試合開始が告げられ、両チームがコートの中心へと集まっていく。

そして、対峙するように向かい合う亜陽君と八神君。

その瞬間、会場内の熱気は更に高まり、そこかしこに黄色い声が上がり始める。


私も固唾を飲みながら様子を見守っていると、何やら他の選手と比べ、お互いやけに表情が固く見える気がする。

やはり、お互い気に食わないのだろうと思っていたところ、審判が両チームの間に立ちボールを天井に向かって高く放り投げた。


同時に地面から高く飛び上がり、手を伸ばす二人。

そのジャンプ力はどちらも負けじ劣らずである為、亜陽君よりも身長がある八神君の手が先にボールに触れる。

そこから、相手ゴール目指して勢い良く駆け抜ける八神君。

そのスピードとドリブルのキレはバスケ部員顔負けで。
何故彼がバスケチームに入らなかったのか疑問に感じる程、類いない技術で敵陣のディフェンスを難なく交わし、あっという間にフリースローラインまで到着すると、八神君は地面を蹴り上げゴール目掛けてボールを投げる。


すると、放り出される手前。

すかさず亜陽君が脇から飛び出してきて、誰よりも高いジャンプ力でそれを見事に弾き飛ばした。

そのこぼれ球を青チームが拾い上げ、体制がディフェンスからオフェンスへと即座に切り替わる。

そして、目にも留まらぬ速さで最前列へと駆け戻った亜陽君は、チームからパスされたボールをゴール下で受け止めると、流れるような動きでそのままネットへと押し込めた。


こうして試合開始からものの数十秒で点が入った途端、これまでにない程の大きな歓声が沸き立ち、鼓膜を突き刺してくる。

コートを取り囲む女子達は皆亜陽君の勇姿に骨抜き状態となっていて、私もうっとりしながら彼の動きを目で追う。

今は生徒会の仕事と私生活が忙しくて、お互い部活には入っていないけど、亜陽君の運動神経は現役の頃から変わらずで。

文武両道な彼の姿に胸が熱くなり、黄色い声が飛び交う中、恥ずかしさを振り払って負けじと彼にエールを送る。

それが彼の耳に届いたのか。
亜陽君はこちらの方に視線を向けると笑顔で手を振ってくれて、私は嬉しさの余り表情が緩み出す。

きっと私の声なんて届かないのだろうと、あまり期待していなかった分、しっかり反応してくれたことに私も笑顔で手を振り返した。


すると、亜陽君の側に立っていた八神君も私の存在に気付くと、何やら思いっきり睨まれてしまい、遠目でも分かる程の迫力に肩がすくむ。

しかし、八神君は直ぐに視線をコートの方へ戻すと、何事もなかったように所定の位置につき、試合に集中し始めた。