「もう来てたのか」
作業着に着替え終え、二階堂さんから仕事内容の説明を受けている中、後から出勤してきた八神君と鉢合い、少し驚いた表情をされた。
「早く仕事覚えなきゃと思って。出来る限り足手纏いにはなりたくないから」
そう戸惑いながら答えると、八神君は無表情のまま私の頭に手を軽く置く。
「ここではそんなこと思う奴は誰もいないから、安心しろ」
そして、やんわり口元を緩ませると、優しく頭を撫でてから、自分のロッカーへと向かって行った。
その後ろ姿を、私は呆然としながら見送る。
…………なんだろう。
なんか、凄く調子が狂う!
普段は煙たがれるか、意地悪しかしてこないのに。
こういう慣れない優しさは、心臓に悪いから止めて欲しい。
危うく心を持っていかれそうになり、私は火照り始める頬を誤魔化すために、急いで持ち場へと戻った。
今日のシフトは八神君と二階堂さんと私と店長さんの四人。
営業時間は夕方五時からで、今日は二十人弱の団体客の貸切予約が入っているため、かなり忙しくなるらしい。
そんな中で、私みたいな社会経験皆無の人間が果たして役に立つのか、かなり不安ではあるけど。
兎に角、我武者羅に頑張ろうと、私は小さくガッツポーズをして気合を入れた。