とりあえず、八神君が来る前に早く着替えてしまおうと。
私は用意された作業着とエプロンを持って、足早に事務室へと向かう。

その時、上着のポケットからメッセージの着信音が鳴り、私はスマホを取り出して何気なく送信者を確認した。


”あまり帰りが遅くならないように”


それは絵文字も何もない、感情がいまいち読み取れない母親からのメッセージ。



今日のことは誰にも話していない。

勿論、亜陽君にも。

唯一知っているのは渚ちゃんだけで、彼女は私の一大決心を快く応援してくれた。

だから、この決断は間違っていないんだと。

そう自分に強く言い聞かせながら、私はスマホをマナーモードに切り替えて、鞄にしまう。

そして、気合を入れるためにゆっくりと深呼吸をした。



お手伝いとはいえ、今日一日私はここの従業員として働く。

人生初のバイト。

イベントの時はほぼ裏方だったけど、今日は接客中心なので緊張感が更に増してくる。