それから、駅を出て徒歩五分くらいで辿り着いた八神君のバイト先。
最近出来たばかりなのか。
外観はとても綺麗で、余計な飾りもなく、黒で統一されたシックなデザインの看板には”鉄板焼き屋KAGARI”と白字で書かれていた。
事前に調べた情報だと、お肉の値段はそこそこするけど高級店程ではないので、割と手軽に良いお肉が食べれると評価が高かった。
開店時間は夕方なので、お昼のお客さんは私達だけ。
しかも、今日は店長から貰った招待券により、全て奢りだという。かなりのVIP対応に膨らむ期待感と、少しの緊張感で鼓動が徐々に早まっていく。
「いらっしゃーい。待ってたよー」
とりあえず、気持ちを落ち着かせるために何度か深呼吸をした後。
恐る恐る店の扉を開いた途端、とても人懐こい笑顔を振り撒く、見知らぬ茶髪の若い男性が私達を出迎えてくれた。
「あ、あの。この度はお招き頂きありがとうございます」
とりあえず、先ずはご挨拶をと。
私は声を震わせながら恭しく頭を深く下げる。
「いえいえ、こちらこそ。それにしても、まさか二人がこんなに可愛いなんてねー。あの時出れなかったのがマジで悔やまれるわー」
すると、若い男性の絡みは更に深くなり、しかも後半は何を言っているのかよく分からない。
「ねえ、二人とも彼氏いるの?なんなら連絡先交換……痛えっ!」
「会って早々ベタ過ぎるナンパごっこしてないで、さっさとコレ運んで下さい」
それから、勢いづく男性に若干畏怖し始めた瞬間。
間髪入れずに、八神君が無表情で男性の背中を後ろから蹴り付け、そこで会話が中断された。
「あのさ、俺一応先輩。それに、これは緊張をほぐす為のコミュニケーションだし」
「だから彼女出来ないんすよ先輩」
「お前がそれ語るなよ」
そして、先程の軽々しい雰囲気はどこへやら。
今度は至極冷静な態度で八神君と淡々とした言い合いが始まり、会話についていけない私達は、二人のやり取りを唖然と眺めていた。