「こんな所でなにしてんだ?」
すると、自販機で買ったホットココアを飲みながら呆けていると、突如背後から知った声が響き、咄嗟に後ろを振り向く。
「八神君こそ、こんな時間まで学校にいるなんて珍しいね」
ただでさえ校内にいる事が少ないのに、授業が終わっている時間帯に彼が居るのが信じられなくて、私は目を丸くしながら首を横に傾げる。
「あー……。野暮用」
そう言うと、何やら視線を逸らして、はぐらかされてしまい、益々不信感が募るけど、敢えて深くは追求しないことにした。
「私は生徒会の会議が一段落ついたから休憩中」
「それは相変わらずご立派ですこと」
とりあえず、自分もここに居る理由を説明したら、皮肉たっぷりの返答が来て、少しだけ頬を膨らませる。
「それより、悪かったな」
すると、何の前触れもなく謝られ、私は意味が理解出来ずきょとんとしていると、八神君は決まりが悪そうにまたもや私から視線を外した。
「あの時はちょっとやり過ぎた。よくよく考えたら、流石に身勝手過ぎたと思って」
なんと。
あの八神君が反省しているとは。
確かに、あの時の行為は酷かったけど、流された自分も自分だから自業自得だと割り切っていたのに。
「八神君も人に謝ることがあるんだ……」
兎にも角にも、素直に謝罪してきたことが意外過ぎて、つい思ったことが外に零れてしまった。
「お前、俺の事なんだと思ってるんだよ」
「うーん、日頃の行いのせいかな」
それが気に食わなかったようで。
とても不服そうな目を向けてくる八神君に私は悪戯心で皮肉を返すと、今度はまじまじとこちらを眺めてきて、訳が分からずその場でたじろいでしまう。
「あの……なにか?」
「いや、浮かない顔してるから少し気になっただけ」
一体何を言われるかと思いきや。
彼が私を気にかけるなんて、これまた予想外のことに先程から驚きの連続だ。
「えと……彼にバイトがしたいって話したら、却下されてちょっとヘコんでるの」
「は?なんだそれ?随分とくだらねー話だな」
八神君に話そうか話さまいかギリギリまで迷った結果打ち明けたのに、思いっきり顔を歪ませながら辛辣な言葉を投げられてしまい、言わなきゃよかったと後悔する。
「確かに八神君にとってはくだらないかもしれなけど、私にとって亜陽君の意思は何よりも大事だし、家の事情もあるし、そう簡単に自由なんてなれないから」
こんなことを彼に言ったところで仕方がないし、八つ当たりでしかないのも分かっている。
けど、徐々に膨れ始めていく不満で、愚痴が止まらない。