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「……は?バイトがしたい?」


一日の授業が終わり、今日もプロジェクトの会議がある為生徒会室へ向かうと、丁度亜陽君が先に来ていたので、胸の内を明かした途端。

唖然とした目を向けられてしまい、私はたじたじになりながら彼を見上げる。

「うん。とりあえずこのプロジェクトが終わったら、受験が始まるまでの間だけ短期バイトをやってみたいなと思って。いい社会勉強にもなるし」

突き刺さるような彼の訝しげな視線が痛いけど、負けじと自分の考えを主張してみると、今度は亜陽君の表情が段々と曇り始めた。

「急にどうしたの?別にお金には困ってないでしょ?」

そして、予想通りの返答に再び気持ちが押されてしまうけど、はっきりと伝えなければ何も始まらないので、私は小さく息を吸って彼の目を見据える。

「お金の問題じゃなくて、ただ自分の知らない世界に踏み込んでみたいの。そうすれば、将来やりたい事とか、なりたい自分を考えるきっかけになるかもしれないし」

おそらく、この考えを家族の前で話したら即却下されるだろう。

しかし、私を愛してくれている亜陽君なら、まだ歩み寄ってくれそうな気がして。

若干の期待を込めながら彼の反応を待っていると、それに反して深い溜息が返ってきた。


「もしかして、あの男の影響だったりする?」

しかも、核心をつかれてしまい、思わず表情が固まる。

「え、えっと……何でそう思うの?」

まさか、ここで八神君の話が出てくるとは。
予想だにしない質問に、私は視線を泳がせながら質問で返す。

すると、不意に亜陽君の手が頬に伸びてきて、ぴくりと小さく肩が震えた。

「あいつと関わってから、ずっと美月の様子が変だから」

それから、少し低めの声で断言されると、人差し指がゆっくりと頬を伝い、顎へと落ちて、そのまま優しく引き上げられる。


目の前に映るのは、緩やかに弧を描く私の好きな穏やかで綺麗な薄青い瞳。

けど、その奥から感じる有無を言わせない圧力に、思わず背筋がぞくりと震える。

まるで、これまでのことを全て見透かされているみたいで、否定しようにもなかなか言葉が出てこない。