「あ、あの……。なんか、ごめんなさい」
暫く彼女の圧に押されてしまった私は、とりあえず今思い浮かぶのは謝罪の言葉くらいで、若干混乱しながらもう一度頭を下げてみる。
「いえ。こちらこそ取り乱してすみませんでした」
すると、渚ちゃんはふと我に帰り、少しだけ耳を赤くしながらバツが悪そうに視線を逸らした。
「倉科副会長は八神先輩のことが好きなんですか?」
それから暫くの間沈黙が流れた後、突如投げられた渚ちゃんの核心的な質問に、私はぴくりと肩が小さく震える。
「いいえ。説得力に欠けるかもしれませんが、私は今でも九条会長のことを心から愛していますし、彼しかいないと思っています。ただ……」
そこまで話すと、その先の言葉がなかなか出てこなくて、つい視線を足下に落としてしまう。
果たして今の自分の気持ちを正直に話していいものなのか。
渚ちゃんは失望しないと言ってくれたけど、この乱れた心を全て曝け出してしまったら、いくら彼女でもそれを受け入れるのは難しいのではないだろうか。
ここまで自分を慕ってくれる可愛い後輩をこれ以上傷付けたくないし、何より嫌われたくない。
けど、これで変に取り繕って嘘で塗り固められた自分を晒すくらいなら、正直な醜い自分を見せた方がまだマシな気がする。
そう心の中で結論付けると、私は意を決して小さく深呼吸をした。
「八神君に触れられると理性がなくなるんです。ダメだと幾ら自制してても彼の熱には敵わなくて、快楽に溺れてしまって、寧ろもっと触れて欲しいと思ってしまうんです……」
そして、震える心を抑えながら、これまで誰にも言えなかった本音を今ここで初めて口にした瞬間、意図せず一筋の涙が零れ落ちてきた。
「こんな乱れた私は亜陽君の許嫁として相応しくありません。副会長を務めるのにも疑問を感じます。なので、渚ちゃんのその言葉はとても有難いのですが、私はそんな自分が許せませんし、倉科家の一人娘として家族にも顔向け出来ません」
ここで正直に話すことが贖罪になるとは思わない。
ただ、ありのままの自分を曝け出したことにより、少しだけ肩の荷が降りたような気がして。
その安心感からなのか、それとも改めて自分の愚かさを認識してしまった絶望感からなのか。
どちらとも言い難い感情がぐるぐると私の中で渦巻いていて、止めどなく溢れ出てくる涙に思わず両手で顔を覆う。