「熱っ!」
その時、奥の方から突然男性の短い声が響き、驚いた私達は厨房に視線を向けると、何やら一人の従業員が腕を押さえて苦しそうに顔を顰めていた。
「すみません、作業してたら網に腕がっつり当たって……」
「随分と派手にやったな。とりあえず、救護室行くぞ」
心配になって中の様子を伺うと、ここからでもはっきりと分かる従業員の腕に浮かび上がった赤い跡。
それは見るからに痛々しく、八神君も作業を中断して、直ぐに冷凍庫から氷の入った袋を取り出し、手際良く応急措置をする。
「来夏。俺ら一旦外すから販売停止しといて。流石に一人でこの量は捌けないだろうし」
「そっすね。とりあえず、今受けてる分だけ焼いたら終わりにするんで」
急な非常事態でも終始冷静な八神君は素直に頷くと、救護室へと向かって行った二人を見送った後、直ぐに持ち場へと戻ってきた。
「……あ、あの八神君。私でよければ手伝うよ?」
それから作業を再開したタイミングで、私は言おうか言わまいかギリギリまで悩んだ提案を思い切って口にしてみる。
「は?」
すると、予想通り八神君は動かしていた手を止めて、怪訝な表情でこちらに視線を向けてきた。
「人が戻るまでの間、私に出来ることがあれば何でもするから。だから、営業を続けない?」
しかし、そこは負けじと更に踏み込んでみると、八神君は眉間に皺を寄せ、益々表情を険しくさせる。
「あんたみたいな人間が出る幕じゃねーよ。遊びじゃないんだから、余計な首突っ込むな」
そして、最もなことを容赦なく言われてしまい、一瞬怯んでしまう。
「そうですよ副会長!あの人の言い方はどうかと思いますけど、無理なさらないで下さい。お召し物や綺麗なお顔が汚れてしまいます!怪我もするかもしれませんし!」
それから、さらに追い討ちをかけるように渚ちゃんが全力で止めに入り、段々と気持ちが押されてくる。
確かに、常識的に考えてバイト経験もない世間知らずな私がしゃしゃり出ても足でまといだし、迷惑でしかないと思う。
それは、よく分かっている。
分かっているけど……。
…………でも。