「お兄さん、お勧めってなんですか?」

「めっちゃタイプ。私、お兄さん終わるまでここで待ってまーす」

「ねえねえ、ID教えてー」

「仕事終わったら、私と遊ばない?」


お店に近付くにつれ、徐々に聞こえてくる女性客の色めき立つ声とナンパの嵐。

一方で八神君は全く相手にしておらず、受け流してはいるものの、次から次へと挑戦者が現れ続け、なかなか前に進まない。

やはり、見た目が大人っぽいだけに高校生と思われていないのか、酔ったお客さんにまで絡まれている有様。

「……うわあ、えぐ。なんですかあれ、超乱れてますけど。てか、お酒の力ってこわっ」

それを渚ちゃんは思いっきり蔑んだ目で眺めながら、しみじみと言い放った最後の一言に、私も激しく同意してしまう。


確か八神君はバイトしていると言っていたけど、もしかしたら、このお店がそうなのだろうか。

見ると露天の脇にはお店のチラシが貼ってあり、そこにはデカデカと鉄板焼きと店名が書かれてあった。

そして、その周りには女性客が群がり、皆写真を撮っては黄い声を上げている。

つまりは、この会場のみならずお店にまで追いかけるつもりなのか。

もやはここまで来たらただの営業妨害なのではと。内心そう思うと、何だか八神君が気の毒に思えて、私は同情の目で彼を眺める。