こうして、お店を巡っては食べての繰り返しで、かれこれ二時間近くが経過。
目星を付けた所は粗方回ったので、そろそろお腹の方も大分満たされてきた。
しかし、渚ちゃん曰くまだ腹七分目らしく、体型は痩せ型なのに、一体どこにそれ程の量が入るのか不思議に思いながら、私達は次のエリアに足を運んだ時だった。
何やらとある店舗の周りだけ、やけに人集りが出来ていて、しかも殆どが女性客という。
そして、こぞって黄色い声がそこらかしこであがり、もしやアイドルが店番でもしているのではと興味本位でそのお店に近付いた瞬間、私は自分の目を疑ってしまった。
「え?あれって八神来夏じゃないですか?」
そして、固まる私の隣では渚ちゃんも口をあんぐりと開けたまま、ある方向へと指を刺して呆然とする。
やはり、見間違いではない。
あの人は確かに八神君だ。
頭にタオルを巻いているから一瞬分からなかったけど、チラリと覗く赤い髪と、耳と口のピアスは彼の象徴。
そして、髪がなかろうが、煙にまみれようが、揺るがない美貌は遠目でもハッキリと分かり、私はつい後退りをしてしまう。
「ななな渚ちゃん、他のお店に行きましょう。ここは見なかったことにして……」
「いえ、寧ろ突入しましょう。八神来夏、ここで会ったが百年目。散々問題を起こした腹いせに、客の立場を利用しまくりましょう!」
彼が気付く前に一刻も早くこの場を立ち去ろうと促すも。
八神君に対する渚ちゃんの恨みは相当深いようで、全くもって私の話を聞かないどころか、変な闘志を燃やして長蛇の列へと突っ込んでしまった。
このまま私だけでも逃げようかと。
そんな考えが一瞬頭をよぎったけど、流石に暴走している彼女を一人で行かせるわけにもいかず。
堪忍した私は再び運命の神様にこれでもかと罵声を飛ばしながら、泣く泣く渚ちゃんの後を追うことにした。