「……はあ、はあ」


それから、先程見た光景を掻き消す程に我武者羅に走り続け、行き着いた場所は学校近くにある広い公園前。

スタミナが尽きた私は一息付く為、近くのベンチに腰を掛けてから呆然と空を見上げると、先程の光景が脳裏に蘇ってきた。


あれは紛れもなく私に対する裏切り行為だった。


あんな濃厚なキスなんてこれまで一度もされたことがないし、あの女性が言っていた“あっちの方”とは、まさかそれ以上の行為のことを言っているのだろうか。

もしそうだとしたら。

これまで亜陽君は私の知らないところで、他の女性に触れていたということなの?


「……うう、そんなの嫌……」

そう思うと体の力が一気に抜け落ちてきて、それが引き金となり涙が滝のように溢れ始める。

私には亜陽君が全てで、亜陽君が居なきゃ生きていけない程に全身全霊で彼を愛しているのに。

そして、どんなことがあっても私は亜陽君の良いお嫁さんになると誓って必死で頑張ってきたのに。


それなのに。


とてもじゃないけど受け止めきれない現実。

これからどうすればいいのか。

そんな事を思うよりも亜陽君の想いが私だけじゃないことを知り、その残酷な事態にただ打ちひしがれている。

「嫌だよ、亜陽君……」

それを拒むように、私は人気のない公園の中、顔を押さえながら声を上げて思いっきり泣いた。