俺が八神家の人間となったのは今から三年くらい前の話。

父親と死別した母親の再婚相手が、まさか自動車産業の頂点に君臨する八神グループの代表取締役だなんて。

その話を初めて聞かされた時は、あまりにも非現実的過ぎて、なかなか信じることが出来なかった。


平均的な一般家庭から、一気に生活水準が引き上げられた財閥家の暮らし。

一体どれ程の差があり、八神家の人間が俺達をどこまで受け入れてくれるのか。

当時色々不安を抱えていたけど、意外にもその心配は呆気なく吹き飛んだ。


八神家の家族構成は、父親と歳の離れた兄弟が二人。

大人の余裕というやつなのか、当時から捻くれていた俺を兄弟は面倒を見てくれて、父親も含め八神家の人間は皆んな俺達に優しかった。

だから、ここでの暮らしは不満なんて何一つない。


そう思っていたけど……。


唯一感じていた、ある“違和感”。


それは、八神家の人間に一度も怒られたことがないこと。

それに気付いたのは、新生活が始まって半年くらい経ってのことだった。