「もしかして何か勘違いしてね?別に俺は実家嫌いじゃねえよ。家族仲もそこまで悪くないし」
「そうなの?」
なんと。
今まさしく悲劇のヒーローを頭の中で思いっきり描いていたところ、根本的な部分を否定されてしまい、今度は私が呆気にとられてしまう。
「流石に全部一人は無理だけど、バイトして生活費稼いで、あとは酒も煙草も女も喧嘩も。全部興味があるのは片っ端からやりたくなるのが性分なんだよ」
そんな私を他所に、透き通った目を更に輝かさせて語る八神君の表情は、心の底から楽しんでいるようで。
言ってることは全くもって許容出来る内容ではないけど、何だか少しだけ羨ましいと思ってしまう。
「とりあえず、自由なのはいいけど、ほどほどにして下さい」
けど、その気持ちは決して本人の前で口にしたくはないので、代わりに生徒会副会長の立場を利用して憎まれ口を叩いてみた。
「それなら、ちゃんと俺を見張ってろよ。そんな隙だらけだと今度こそあんたを食うぞ?」
すると、八神君の目の奥が妖しく光った直後。
突然顔を近付けてきて、吐息混じりの色味を含む言葉を囁かれた途端、私の体は耳の先まで熱を帯び始めていく。
「だから、ふざけるのも大概にして!」
このまま彼の言うことを間に受けてしまうと負けな気がして。私は勢いよく反発すると、八神君は小刻みに肩を振るわせながら人をおちょくるような笑いを見せてきた。
「本当に、言っていいことと悪いことがあるから気をつけてね」
その時、背後から落ち着いた男性の声が聞こえてきたと同時に、突如腕を引っ張られ、軽い悲鳴と共に体が後ろへと傾く。
そして、倒れる一歩手前のところで誰かに抱き止められ、ふと顔を上げると、そこにはやんわりと微笑む亜陽君の姿があった。