「そういえば、八神君は私達がここに来ていること知ってるの?」

何はともあれ、会ってしまったものは仕方ないと。ここは潔く割り切ることにして、私は先程彼に言われた言葉を思い出し、疑問をぶつけてみる。

「ああ。昔何度か見掛けたことがあって。今時珍しいくらい大人に懐柔された奴らだと思ってたら、高校入ってまさかそれがうちの会長と副会長だなんてマジでウケるわ」

すると、思いっきり皮肉が返ってきて、癪にさわる彼の言い方に、私は頬を膨らませた。  


けど、これで納得した。
八神君が何故私を“操り人形”と言ったのか。

まさか、彼は知らぬ間に私達の事情をここで見ていたとは。

確かに、名だたる客層が集まると有名な料亭なので、おかしな話ではないけれど……。
何だか小馬鹿にされているようで段々と腹が立ってくる。


「そう言う八神君だって、なんだかんだこうして家の都合に振り回されているじゃない」

だから、私も負けじと憎まれ口を叩くも、彼にはあまり響いていないようで、あっけらかんとした表情のまま私の目をじっと見据えてくる。

「まあ、否定はしねーよ。けど、これは俺が自由になる為の条件だから別にいいんだ」

そして、満足そうに答える八神君の話に、私は新たな疑問が生まれた。

「あの……差し出がましいのは重々分かっているけど、八神君はそこまでして実家から離れたいの?」

人の事情に、しかも特に親しいわけでもないのに、私がここまで踏み込んでいいとは思わない。

けど、自分とは180度違う生き方をしている彼のことが気になり過ぎて、つい聞かずにはいられなかった。

「まあな。だって俺は再婚した母親の連れ子だし、向こうには既に兄弟が二人居るしで、肩身狭いからさっさと抜け出したんだ」

しかし、八神君は全く気にする素振りを見せないどころか、相変わらず何食わぬ顔でさらりと衝撃的な事実を教えてくれて、私は一瞬言葉を失う。

大企業の御曹司なのに一人暮らしとは、一体どんな事情があるのかと思いきや。
まさかの八神君が連れ子だったとは。

しかも、高校生から家を飛び出す程とは、もしかしたら家庭環境はあまりよろしくないのだろうか。

そうなると、これまで彼に強く当たっていた事が何だか少し申し訳なく感じて、段々と身が縮こまってきた。

「あ、あのごめんなさい。変なこと聞いてしまって……」

とりあえず、辛い話をさせてしまったことに対してはきちんと謝ろうと思い、私は素直に頭を下げる。

すると、八神君はきょとんとした表情で首を軽く傾げた。