「……もしもし、亜陽君?」

彼と連絡が途絶えてから二時間が経過。

八神君と別れ、ようやく電話が出来ることに安堵しながらも。
その裏に見え隠れする不安と恐怖が入り混じり、声が少しだけ震えてしまう。


「美月今どこ?」

すると、返ってきた彼の声は意外にも静かで落ち着いていて、少しだけ拍子抜けした私は、何か目印となる建物はないか周囲を見渡した。

「えと……今は駅近くのコンビニ辺りかな」

「分かった。これから迎えに行くからコンビニの前で待ってて」

そして、単調な声で要件を端的に言われると、通話はそこで切れてしまった。


……やっぱり、亜陽君怒ってるかな。


スマホの画面に表示されている”通話終了”の文字をじっと眺めながら、私は呆然とその場に立ち尽くす。

いきなり八神君に拉致されて、そのまま音信不通になってしまったから、もっと動揺しているのかと思っていた。

けど、予想に反して普段と変わらない様子で、「大丈夫?」という言葉もなくて。
心配されてないとは思わないけど、少しの寂しさが襲ってきて、自然と肩が下がる。

それに、私達がいなくなった後、亜陽君は白浜さんとどうなったのか、今更ながらに不安が押し寄せてくる。

もう彼女とは関わらないと断言してくれたけど、八神君の話が本当だとしたら、それは嘘だということ。

これ以上彼を疑いたくはないのに、疑心暗鬼になる自分を止めることが出来なくて、私は亜陽君が来るまでの間、終始悶々としていた。