《湊side》

もうあと1時間もすれば日本を発つ。

留学のことは前々から考えてはいたものの、ずっと踏ん切りがつかずにいた。

でも、紬が攫われたことで、やっと決心がついた。

あいつと距離を置くいい機会になるし、俺自身、もっと成長するべきだとわかったからだ。

あれ以来あいつとは会ってないし、別れの言葉も言えていない。

だけど、これでいい。

俺のせいでこれ以上あいつが危険な目に遭うのは耐えられない。

あの日の紬の腫れた頬を思い出して、ため息をつく。

「お坊ちゃま、、、本当にいいんですか?」

空港のラウンジで1人俯いていた俺に、竹岩が心配そうな声でそう問いかけた。

「いいも何も、今更やっぱ行きませんなんて言えねえよ。俺が決めたことだし」

不安も寂しさも後ろ髪を引かれる気持ちもあるが、留学を通してもっといろいろなことを学びたいという気持ちにも嘘は無い。

「そうですか、」

竹岩はそれ以上何も言わずに、静かに俺の隣に腰を下ろした。