「紬、大丈夫か、、、!?」

「綾川、、、なんで、、」

あまりにもタイミングが良くて一瞬、死ぬ前の走馬灯か何かと思い、覚悟を決めた。

だけど私を見つめる綾川は確かにきちんと生きている人間だ。

「それはこっちのセリフだ!なんでお前が誘拐なんてされるんだ!?」

駆け寄ってくる綾川に、私を抑えている男達が、咄嗟に殴りかかろうとする。

しかし、綾川のボディーガードと思わしき屈強な人達がそれを許さなかった。

部屋の中はまさに大混乱。

座り込んで動けない私の腫れた頬を心配する綾川の後ろで、怖い男の人達が暴れ回っているのだ。

もう誰が味方で誰が敵なのかもよく分からない。

だけど綾川が来てくれたことにほっとして、止まっていたはずの涙がまた溢れ出てくる。

「お坊ちゃま!早くこの場を離れてください!」

ボディーガードの1人がそう怒鳴ったことで、部屋中の人の視線がこちらに向いた。

私、或いは綾川を絶対に逃がしたくないであろう男達がこちらに走ってくるが、ボディーガードがそれを止める。

「紬、走れるか?」

綾川も焦ったように私を見る。

このままここにいては危ない。

「走れるよ」

震えが止まらなかった脚をピシャリと叩く。

綾川の腕にしがみつくようにして立ち上がると、私は大きく頷いた。