「そもそもな、綾川財閥に恨み持ってんのは俺たちだけじゃねえんだよ」

「俺らは汚れ仕事を代行してやってるだけっつーこと」

「まあでもあっちのお坊ちゃんは常にボディガード付いてるし、アイツの彼女でしかも庶民のお前なら拉致すんのに打って付けだったわけだ」

何やらぎゃんぎゃん騒ぎ出した男達の声は、半分も私の耳に届かなかった。

ジンジンと痛み出した頬は、おそらく内側を切ってしまっている。

鉄くさい味が口の中に蔓延していた。

なんでもいいからさっさと解放してほしいのに、依然として私を拘束する手はとても力が強い。

私の人生はここで終わってしまうのだろうか、、、。

そう思うと自然と涙が出てきた。

こんなことになるならパーティの時、商品開発の提案に乗っておけば良かったのかもしれない。

やり残したことは沢山ある。

来週発売のハーゲン◯ッツの新作もまだ食べれてないし、自分でメイクだってしたことないし、パーティーに着て行っても恥ずかしくないような洋服をまだ買ってないし、何より、、、

私はまだ綾川に何も返せてない、、、。

綾川との出会いは最悪だったけど、トラックに轢かれそうになった時に助けてくれて、水族館にもパーティーにも連れて行ってくれて、、、。

きっと私は綾川がしてくれたことにこれっぽっちも返せてない。

死ぬかもしれない時に最初は大嫌いだった綾川のことを考えている自分が可笑しくて、こんな状況なのに笑ってしまいそうになる。

だけど、死ぬ前に一度だけでいいから綾川に会いたい。会って素直になれずに言えなかったお礼を言いたい。

そう思った瞬間、勢いよくドアが開き、薄暗かった部屋に明るい光が差し込んだ。

「紬!!!!」

聞き覚えのあるその声に、ハッと顔を上げる。

「綾、、川、、、?」

その先には今、私が会いたくてたまらなかった人の姿が、目の前にあった。