「湊さんのスーツ素敵ですわ!渋い色合いで大人っぽいデザインですし、、、ネクタイもあの有名ブランドのものでしょう?」

そんな早乙女の、綾川を褒める声が鬱陶しい。

「ありがとう。ここのブランドにはよくお世話になってるんだ」

心做しか満更でも無さそうに答える綾川にも無性にイラついた。

はいはい、どうせ私は「似合ってる」とかそんな適当で薄い言葉しか言えませんよ。

ブランドなんて知らないし。

近くのテーブルに置いてあったソフトドリンクを手に取り、一気に喉に流し込む。

そういえばパーティー会場に来るまでに綾川は私をスマートにエスコートしてくれてたけど、今までもいろんな女の人相手にしてたことだから手慣れてたのかもしれない。

一体あの猫かぶった笑顔で何人の女の人を誑かしてきたのだろうか。

ふつふつと綾川に対して行き場のない怒りが込み上げてくる。

私の怒りが爆発しかけた時、、、

「紬ちゃん!」

と肩を叩かれ、燃え上がっていた怒りの炎が咄嗟に鎮火された。

「、、、はい?」

慌てて笑顔を作り振り向くと、そこにはさっき会ったばかりの男の顔があった。

「あ、なんとかなんとかさん」

「京極だよ、」

呆れた顔でそう言われ、そういえばそんな名前だったと思い出した​。​

「なんかボーッとしてるから、心配で声掛けちゃった。気分悪そうだし、ここは人が多いからバルコニーまで行こう」

そんな彼の気遣いに、余計なお世話だとは思いつつも、確かに私は疲れているのかもしれない、とその誘いに乗ることにした。

まだあの駄作アイスクリームについて語り足りなかったというのもある。

そうして私は京極と共にその場を後にし​た。​