「あのー、私のこと覚えてますか、、、?」

こちらをチラチラと見ながら話していた女の子達の1人が、とうとう綾川に声をかけてきた。

「、、、何となく?」

数秒の沈黙の後、綾川は取ってつけたような笑顔で曖昧な返事をした。

絶対覚えてないだろ、これ。

「えー!ほんとうですか?嬉しいです!!」

「私も前のパーティーでお話させてもらってたんですけど、、、」

数人の女の子達が、まるで私が見えていないかのように綾川の周りに集まり、一斉に騒ぎ出した。

何だか居心地が悪くなって先程のようにこの場を去ろうとしたが、綾川に腕を捕まれ阻止されてしまった。

「、、、ところで、横の女の子は誰ですか?見ない顔ですけど、、」

「どこの令嬢なんですか?」

綾川が私の腕を離さないせいで、さすがに女の子達も私の存在を認識せざるを得なかったようだ。

面倒事には巻き込まれたくなかったのに、、。

「どこの令嬢でもねえよ。こいつ紬って言うんだ。仲良くしてやってくれ」

綾川は私の肩をポンと叩き、まるで学校の先生のようにそう促した。

その瞬間、彼女達の好奇心のある目は一気に冷めた視線へと変化した。

「なぁんだ、一瞬湊様のフィアンセか何かかと思ったけど、令嬢ではないんですね!」

「よかったー!でも確かに言われてみれば全然、上流階級の子には見えないですものね」

「メイド見習いか何かですか?」

嫌味ですら無さそうなその純粋な悪口に、私はふつふつと腹が立ってきた。

黙っていれば好き勝手言いやがって、、、。

しかし、そんな私に興味を無くした彼女たちは既にこちらからしっかり視線をずらし、また綾川をきゃっきゃと褒めだした。

「綾川、私ちょっと御手洗に行ってくる」

「あ?、、、わかった」

このままここにいては私の怒りが暴れだしかねないと判断したため、適当な理由をつけて綾川から離れることにした。