ホテルに入るとすぐ、目の前にパーティー会場が広がっていた。

大きなテーブルがいくつも点在していて、その上に高級そうな料理が並んでいる。

如何にもお金持ちという風貌をしたおじさんや、着飾ったおばさん(お姉さん)、グラスを乗せたお盆を持って忙しそうに歩き回る黒服の人達、、、。

余りの人の多さに、思わず怯んでしまう。

「今日はうちの会社が主役だから俺も忙しいんだ。でもお前はすぐ迷子になりそうだから俺の側を離れるなよ」

綾川のそんな言葉に感謝しつつ、私は少し不安になった。

「でも私がいたら邪魔にならない?」

こんな綾川でも財閥の御曹司であることは事実だ。

私みたいな庶民は、大人しく会場の隅で料理を消費する機械と化した方がいいに決まってる。

「あ?なるわけねーだろ。俺が招待したんだし」

しかしそんな私の心配を綾川は鼻で笑い、周りをキョロキョロと見回し始めた。

「そんなことよりあそこにステーキあるぞ。お前ステーキ好きか?」

「まあ、」

普段あまり食べるものじゃないから好きも嫌いもよく分からない。

「お前ステーキ好きそうな顔してるもんな。好きなだけ食っていいぞ」

何気に失礼なことを言われた気がして、私は眉をつりあげる。

「どういう意味よ」

「そのままの意味だよ。ほら、食え」

綾川がお洒落な柄の皿を手に取り、ステーキを乗せて渡してくれた。

「、、、ありがと」

遠慮なくフォークで肉を突き刺し、口に運ぶ。

「お、おいしい、、、!!!」

分厚い肉なのに口の中で踊るように溶けていく。

しかもジューシー!

「こんなにおいしいお肉食べるの初めてだよ!」

あまりの感動に、綾川の方を向いてはしゃぐような声を上げてしまった。

「、、、そりゃ美味いに決まってるだろ。一流シェフの料理なんだから」

何故か顔をボッと赤くした綾川が素っ気なく答える。

そのまま私から顔を背けて、自分の分の料理を皿に盛り始めた。

綾川が取っているものは全部、おいしいやつに違いない。

そう思った私は彼の取る料理を全て真似して皿に乗せていった。