とりあえず電車に乗れたことに安堵し、改めて窓に反射する自分の服装を見る。

何度も繰り返し着たせいでよれたTシャツ(ハーゲンダッツと共に)、色あせたジーパン、底の擦れた安物の靴。

セットしてないままの髪も相まって、とてもパーティーに行けるような服では無い。

さすがの私でもこの格好で社交の場に出るのは恥ずかしいことだと予想がついた。

今ドタキャンしても遅くないだろうか、、?

否!!! 美味しいものを食べると決めたのだ。

今日のパーティーで、今まで食べたことの無いような、これからの人生でも食べることの無いような、高級な料理を口にするのだ。

そんな力強い覚悟を胸に抱き、約束の駅に停まった電車を降りる。

なんとか約束の時間に間に合いほっとする。

「よかった、、、」

待ち合わせ場所にたどり着き、いつかのようにきょろきょろと周りを見渡す。

すると、黒いサングラスに黒のマスクを着けた
怪しい男が私の前に立ちはだかった。

「よお!」

一瞬ナンパか何かかと思ったが、聞き覚えのある声にはっとする。

「うわ、綾川!」

「うわってなんだ!今からお前をパーティーに連れて行ってやる男だぞ!!」

そう偉そうに言ったかと思えば私を上から下までじっくりと眺め始めた。

「、、、なんだよその服」

何か言われるとは思っていたが、改めて真面目なトーンでそう言われると心にクる
ものがあった。それも綾川からだと尚更。

「いや、寝坊しちゃって、ほぼ部屋着で来ちゃったというか、、、」

そんな顔をされては、普段からこれで出歩いているとはとても言えなかった。

やっぱりドタキャンするべきだっただろうか、、?

「まあいい。もとからドレスは貸すつもりだったしな」

そんな綾川の言葉に、俯けていた顔を思わずバッと上げる。

「ほんとに!!?」

「当たり前だろ。竹岩がいろいろ取り寄せてくれたんだからな!」

得意げな顔の綾川のすぐ後ろに、何となく見覚えのある執事のような人がいた。

おそらくあの人が竹岩さんだ。

目が合ってしまったので軽く会釈する。

「早く乗れ!今日のパーティーはホテルを貸切にするからな。豪華すぎて失神するなよ?」

私の手を引く綾川に続いて、停まっていたリムジンに乗り込む。

乗せてもらうのは2度目だが、座席のふかふか具合にまた驚いた。

ふと、こんな高級車に触れることができるのも綾川のお陰だなと思う。

隣に座る上機嫌な綾川を見て、こんなださい格好だけど、来てよかったかもと気を持ち直した。