「ほう。正直、思いやりの心など持たない自己中心的な令嬢を想像していたんだが、さすがブロムベルク公爵家は違うな」

 今のは褒められたのだろうか?
 たしかに本物のカリナはワガママな性格をしていた。だけど元々平民であるフィオラは彼女とまったく同じようには振る舞えない。
 しかし少しは令嬢らしく堂々としていなければ、替え玉だとバレてしまう。

「カリナはやさしいんだな」
「やさしいのはサイラス様ですわ。豪華すぎるほどのランチを用意してくださって感無量です」

 政略結婚なのだから、皇子であるサイラスは輿入れしてきた相手を気に入らなければ無視し続けることもできる。
 ほとんど顔を合わせない“形だけの正妃”になるならそれでもいいと覚悟していたが、サイラスは逆に少しずつ距離を詰めようとしているように感じた。

「無理やり俺と結婚させられた君が気の毒でね。だからせめてここでは自由にしていてほしい。やりたいことをやればいい」
「ありがとうございます。そんなふうにおっしゃっていただけるなんて……」

 このローズ宮で居心地悪く暮らしていく想像をしていたフィオラは感動して涙が出そうになった。
 衣食住を与えられた上に自由まであるなんて、と。

「サイラス様は本当に温かいお方ですね」
「なんだ? 凶暴で誰も手が付けられないほどの荒くれ者だとでも? まぁ、巷ではそういう噂だよな」
「噂……ご存知だったんですか。それは間違った情報だと、今すぐ私が街中にふれて回りたいくらいです」

 真面目な顔で力説をするフィオラがおかしかったのか、サイラスは吹き出すようにアハハと笑った。
 仮面で隠されていない右半分だけの笑顔がとてもキラキラとしていて、思わずぼうっと見惚れそうになる。
 よく見ると明るいブラウンの髪も肌もつやつやで綺麗だ。