「味はどうだ?」
「こんなにおいしいお肉は生まれて初めて食べました」
「大げさだな」

 フィオラにとっては大げさでもなんでもない。
 自分が今まで口にしてきた使用人の(まかな)い食とは天と地ほど味も質も違うのだから。

「ラズベリーのゼリーでございます」

 食事の進み具合を見てリージヤがデザートを運んできた。
 ガラスの器に入った真っ赤なラズベリーが色鮮やかでとても綺麗だ。

「あ、待って」

 給仕をするリージヤの指が視界に入り、フィオラは思わず呼び止めた。

「手が真っ赤よ?」
「こ、これは……私は肌が弱くて水仕事が重なるとすぐにこうなるのです。心配ご無用ですよ」

 フィオラ自身もそうだった。洗濯や食器洗いが多い日は手が荒れていたから、そのつらさはよくわかる。

「あとで私の部屋に来て? ミツロウで作ったクリームがあるわ」
「ミツロウ?」
「ミツバチの巣から採れたロウよ」

 フィオラが実家から送ってもらった母の手作り品だ。
 使いかけのものを渡すのは気が引けるけれど、今は自分が持っているよりリージヤに渡すほうが絶対に活用できる。

「私のような者にはもったいないです!」
「そんなこと言わないで使って。綺麗な手をしてるんだから少しでも労わってほしいの」

 フィオラがにこりと微笑むと、リージヤは感動したのか「ありがとうございます」と礼を口にして涙ぐんでいた。
 気遣ってもらえたのがうれしかったのだろう。
 あらためてラズベリーのゼリーを堪能しようとスプーンを手にしたら、テーブルに肘をつきつつこちらを見ているサイラスと目が合った。