翌日、もうすぐ正午になるという時間に、リージヤという名の使用人が部屋にやってきた。
 リージヤはフィオラと同い年くらいの女性で、身の回りの世話をするようにとサイラスから言いつけられているらしい。

「失礼致します。テラスのほうへ来るようにとサイラス様から伝言を賜っています」
「え?!」
「本日はお天気がよく暖かいので、庭を眺めながら一緒に昼食をとのことで……」

 気弱そうなリージヤが申し訳なさそうに肩をすくめて眉尻を下げる。彼女はなにも悪くないのに。
 いったいどういうつもりで呼び出すのかと戦々恐々としながら、リージヤに着替えを手伝ってもらって急いで支度を済ませた。

 太い石柱がエントランスを支えている広大な中庭には、緑豊かな庭園や噴水、彫刻が配置されている。
 テラスにはテーブルと椅子が据え置かれていて、サイラスが長い脚を組んで優雅に座っているのが見えた。

「お待たせして申し訳ございません」

 フィオラは頭を下げつつも、冷たい返事が返ってきても怯えたりしないようにと、内心では気構えていた。

「いや、謝らなくていい。こっちこそ突然誘って悪かった。君にここの庭を見せたかったんだ。なかなかいいだろう?」
「はい。とても」

 噴水が水しぶきを上げ、日の光を浴びてキラキラと光っている。
 庭園は手入れが行き届いていて、フィオラはその美しさと優雅さにうっとりとしてしまった。

 見惚れているうちに、一流シェフたちによって調理された贅沢な料理が次々とテーブルに運ばれてくる。
 中でもメイン料理の鴨肉のローストは、オレンジソースのアクセントが効いていて頬が落ちそうなほど絶品だった。