「はい。誠心誠意努めさせていただきます」


遥人さんがクスリと笑った。


「そんな恍惚とした表情で頷くやつなんて初めて見た。流石、俺が認めた女」

「う、ぇ……ありがとう、ございます」

「そう言うところもかわいーね」

「ありがとう、ございます」

「そうやってちょっと照れちゃってるのもかわいー。耳、赤いよ」


カプリと耳を甘噛されて、肩が跳ねる。

会って数分の後輩の耳を噛む先輩はなかなかいないだろう。


「せんぱ……っ、なに、して……!」

「“遥人”でしょ。澪があまりにもかわいーからいじめたくなっちゃった」


冗談めかしたように言う姿は少し大人びていて、やけに妖しく映った。

くるりと体の向きを変えられて、今度は後ろから抱きつかれる。


「澪。お前はずっと、何があっても俺を裏切らないで。俺を俺として見て。俺は大企業の“御曹司”じゃなくて、ただの“中城遥人”だから………」


静かに、悲しそうな声で呟かれた言葉に少し驚いた。

こんな人でも弱音を吐くんだ。
私に、弱音を吐いてくれるんだ。


「当たり前です。私は貴方の所有物(モノ)ですから」

「……そうだな。澪は俺の所有物(モノ)だ。ありがとう」

「私の言葉なんかでよければいくらでも差し上げますよ」


そこからしばらく、無言の時が過ぎた。
でも、それは不思議と心地よくて随分長いように感じた。


「では、また」

「うん。あ、連絡先」


帰ろうとしたら、連絡先を聞かれた。

スマホを出して遥人さんが出したQRコードを読み取る。


「じゃあ、またね」


遥人さんはそう言って私を送り出した。