「………中城(なかじょう)先輩、何をしているんですか?」


扉を開いてすぐに分かった。

顔なんて見なくても、その後ろ姿を見るだけで分かってしまった。

屋上にいた人物がハイスペ御曹司と噂の中城遥人(はると)先輩だということに。

中城先輩は静かに、ゆっくりと振り返る。

その美しい双眸に見つめられ、動けなくなる。


「───何、お前」


そう言った中城先輩の表情と声音からは何も読み取れなかった。

何を言えばいいのか。
どう答えればいいのか。
何も分からなかった。


「………っ」

「何、この俺の質問に答えらんないわけ?」

「2年1組の院瀬見(みお)です。教室から貴方を見かけて気になって来ました」

「何、この俺が自殺するとでも思ったの?」

「……可能性としては考えられなくもなかったので」

「ふぅん。………俺だって分かってて?」


さあ、ここからなんと答えればいいのか。

答えとしては二択。
“分かっていた”か“誰か分からなかった”

いつもなら簡単なのに、どう答えるべきなのか分からない。


「早く答えなよ。そんなに俺にいじめられたい?」

「………っ、ぁ」

「なに」

「中城先輩だとは思いませんでした。遠目でよく顔も見えなかったので………」


そう正直に答えると中城先輩は「ふぅん」と言って黙った。


「ぁ、あの、勘違いならよかったです。では………」


一刻も早くこの気まずさから逃げ出したくて私は中城先輩に背を向けた。


「ねぇ、待ちなよ。院瀬見サン」


私はビクッと振り返る。


「話はまだ終わってないよ」


その声はとても優しげだったが、私を怯ませるには充分だった。


「院瀬見サンは、俺と話したくないんだ?」

「ぁ、ごめんなさい………」