「んっ……。ちょ、あの……」

「静かに、ね。寝らんないじゃん」

「や、あの、遥人さんのせい……っ、ん」

「うるさい。寝かせてくんないの」


反論しようにも、強引に従わされてしまう。


「いーじゃん、羽目外しちゃおうよ」


結局、遥人さんの溢れ出る色気に負けて、膝枕をすることになった。




三時間目終了のチャイムを聞き終えた頃には、遥人さんは規則正しい寝息を立てて眠っていた。

その寝顔はあどけなく、年相応の無邪気さを纏っていた。
普段の遥人さんからは想像もできないような愛らしさと、だけどやはり色気はだだ漏れだった。



四時間目開始のチャイムを聞き終えた頃、遥人さんの様子が変化した。




「……ごめ、なさ…、かあさ、……」


呼吸が荒くなって、苦しそうに何かを呟きはじめた。


「……ぶ、……れの、せ、い……。ごめ……な……」


何かに向かって怯えたように謝っている。


「……遥人さん?」


軽く声を掛けるも、遥人さんは目を覚まさない。


「遥人さん!」


強く揺すると、彼は勢いよく私の手を払い除けて、警戒するように飛び起きた。
床にすごい勢いで落ちたけど、大丈夫だろうか。


「ぁ、澪、か……。……わりい」


一拍遅れて私と気付いた遥人さんは乱れた呼吸を整えながら、静かに私に頭を下げた。


「いいえ。お気になさらず」


私がそう答えると、遥人さんはあからさまにホッとしたような表情を見せた。

遥人さんにとって知られたけないようなことなのだろうと触れないようにしたのだが……。


「ん。俺、なんて言ってた」


忘れようと思っていたのに、本人に追い打ちをかけられてしまった。


「……私は、何も聞いておりません」

「嘘はいいから」


そうは言われても、と私の中で勝手に情報にブレーキがかかった。