ーー場所は日向の家。
17時50分に日向の叔母が日向の不在時を狙って家に上がり込んだ。
結菜の後任の家政婦は事前に自宅の電話に出ていた事もあって、言われるがままに家に通していた。
叔母が部屋を見回していると家政婦がキッチンで用意したお茶をお盆に乗せて、リビングに移動してからセンターテーブルに置く。
「お茶をどうぞ」
「要らないわ。それよりミカちゃんは部屋にいるの?」
「あっ、はい……」
「わかったわ。……それよりあなた。家政婦なのに居たり居なかったり無責任な行動をするのは辞めてくれない? 先日おじゃました時は仕事を放ったらかして何処に行ってたのよ」
「先日と申しますと……」
「まぁ、いいわ。放ったらかしにしないでちゃんと仕事してちょうだいね」
叔母はその間家政婦が変わった事を知らない。
身に覚えのない言い様に戸惑う家政婦を尻目にミカの部屋へ向かう。
コンコン……
「ミカちゃん、部屋にいるの? 中に入るわよ」
叔母は返事を待たずに扉を開けると、ベッドの上にはクマのぬいぐるみを抱きしめて暗い顔をしているミカの姿があった。
部屋に入ってベッドに腰を沈めると、家政婦に向けていた表情を一変させて目を細めながら口調を改めて言った。
「ねぇ、ミカちゃん。一つ提案があるんだけど……。これから叔母さんの家で一緒に暮らさない?」
「えっ! ミカが叔母さんちで?」
ミカは突然の提案に戸惑いの色を隠せない。
だが、叔母はミカの気持ちもお構いなしに話を続ける。
「そうよ。年が離れたお兄ちゃんと2人きりじゃ寂しいでしょ。うちなら年が近いサラとサユがいるから姉妹みたいで楽しいと思うのよね」
「でも、ミカがいなくなったらお兄ちゃんが1人になっちゃう」
「お兄ちゃんは大きいから1人でも大丈夫よ。お兄ちゃんは仕事も忙しいみたいだし、家が近いから会えない訳じゃないのよ。それに、お父さんとお母さんにはもう二度と会えないから、叔母さんの家で本物の家族として過ごして欲しいの。そしたらミカちゃんも寂しくないでしょ」
叔母は日向の気持ちを無視した状態でミカに想いを告げた。
しかし、ミカはその言葉に引っ掛かりを感じる。
「どうしてお父さんとお母さんに二度と会えないの?」
「ミカちゃんのお父さんとお母さんは天国に行っちゃったからね。2人はお空からミカちゃんの幸せを願っているのよ」
「えっ! ミカのお父さんとお母さんはいま天国にいるの?」
「そうよ。今はお空で幸せに暮らしてるの。だから、お父さんとお母さんに心配かけないように楽しく過ごしましょうね」
叔母は良かれと思って伝えた言葉は、周りの人間から何も聞かされていないミカに暗闇をもたらしていた。
突然聞かされた両親の訃報。
葬儀の際は事務所のスタッフに預けられていた事もあって、事実を伏せられたまま今日という日を迎えていた。