ーー今日は8/24。
結菜はみちるとリア王のイベントに行く為に池袋へやって来た。
駅から徒歩2分のデパートの一角がイベント会場になっている。
夏休み期間中という事もあって、中高生がわんさかと溢れ返っていた。

2人は入り口でスタッフからカゴを受け取って、早速お気に入りの王子様グッズを見定めていく。



「今日の予算は?」

「一万円かな。みちるは?」


「二万。限定フィギュアにバイト代を注ぎ込もうかと思って」

「うわ〜っ、奮発するんだ。……ねぇ、もしかしてあっちの人集りがフィギュアコーナーじゃない?」


「えっ?」



結菜が人が密集している方向に指をさすと、中高生の頭の隙間からフィギュアの箱が見えた。
しかし、目で追ってるだけでも人々の手がフィギュアに伸びていき、高く積まれている山は段々小さくなっていく。
みちるは結菜のTシャツの袖を引っ張って言う。



「やばっ! このまま眺めてたら完売しちゃう。私達も早く行こっ!」

「……う、うん」



ドキ王に激ハマり中のみちるに、最近マイブームが下火になってる事は言えずに着いて行った。

ーーそれから約1時間後。
私達はドキ王のレジ袋をぶら下げたまま街を散策した後、お好み焼き屋さんに入って注文したイカ豚玉を鉄板の上で焼き始めた。
鉄板の上でジューと音を立てて、次第にいい香りが全身に充満していく。



「ごめん、ちょっとトイレに行ってくるから焦げないように見ててくれる?」

「うん、いいよ。焦げそうになったらひっくり返しておくから」


「ありがとね。じゃ、よろしく」



みちるが席を離れると、結菜は鉄板に目を向けた。

バイトを辞めてから目の前で調理するのは約1ヶ月ぶりだった。
チリチリと音を立てながら焼き上がっていく生地。
私はその様子を見ながら日向の家の事を思い出していた。

……あ、そうだ。
3日前はミカちゃんの誕生日だった。
大好きなハンバーグを焼いて3人で一緒にお祝いしたかったよ。
ケーキに5本のローソクを刺して、ほっぺにいっぱい空気を含んでフーッとひと息。
私と日向がクラッカーを鳴らした後に拍手して、これからの1年が幸せになれるように願ってあげたかった。

もしかしたら、新しい家政婦さんと一緒にお祝いをしたのかな。
羨ましい気持ちと憎い気持ちが重なって、今にも爆発しそうになる。
たった1ヶ月間しか働いてないのに、振り返ればかけがえのない時間だった。



「会いたいよ……」



結菜は思わず涙が滴ってしまい、手で顔を覆っていると、席に戻ってきたみちるがびっくりして声をかけた。



「どうしたの? 泣いてるみたいだけど具合悪い?」

「ううん、何でもない」



結菜は隣に置いていたオレンジのショルダーバッグからミニタオルを出して涙を拭き取っていく。
一方のみちるは、結菜が1人で泣くほどの心境が知りたかった。