教室に戻ってきた日向は、しきりに陽翔をかばい続ける結菜に耳を貸さぬまま自分の座席へついて机に寝そべった。
結菜は何度も謝るように促したが、聞き入れる様子がない日向を見ているうちに諦めをつけて自分の席へ戻って行く。
日向は歯止めが効かなくなってる自分を思い返した。
俺、何やってんだろ……。
人の恋愛なんて放っておけばいいのに、気づいた時には手を出していた。
自分がしてる事は明らかにグレーゾーンなのに。
でも、二階堂があいつを抱きしめている所を見たら何故か止まんなくなってた。
もしかしたら、俺はあいつの事が……。
杏は遅れて教室に戻ってくると、スマホを手にしたまま机に寝そべっている日向の前に立って声を降り注がせた。
「ねぇ、阿久津に聞きたい事があるんだけど」
日向は挑戦的な声に気づいて額を押さえながら起き上がると、横目を向けて気怠そうに聞いた。
「なに? いま具合悪いんだけど」
「どうしてコレをあんたが持ってるの?」
印籠のように目の前に突きつけてきたのは、自分のスマートフォン。
日向はそのスマートフォンの色形が自分のものと一致して取り上げようと手を伸ばすが、杏は背中の後ろにサッと隠す。
「それ、俺のスマホ。返して」
「だめ。昼休みに私と話をしてくれるなら返してあげる」
「……わかった。約束だからな」
杏は不貞腐れた返事を受け取ると、ツンと目を逸らして自分の席に着いた。
すると、始業前の予鈴が鳴った。
ーー昼休み。
杏は日向を連れて廊下を出ていった。
その様子を見ていた結菜は、意外な2ショットをつい目で追ってしまう。
杏たちはロ型になっている校舎の中央広場に足を運んだ。
ここは天井が吹き抜けになっていて、空から降り注ぐ日差しが2人を照らしている。
四方八方の廊下に面していて、昼食時に移動している生徒からもよく見える場所だ。
杏が日向の方へ振り返ると話を始めた。
「どうしてあんたが高杉悟のスマホを持ってるの?」
口を開いた途端、聞きたい質問がどストレートにぶつけられる。
しかし、当人とバレないように慎重に行動している日向にとってスマホを落としてしまった事は致命傷でもあった。
「たまたま道で拾っただけ。後で警察署に届けに行こうと思ってた」
「嘘つかないで。さっきは『俺のスマホ』って言ってた」
「……そうだっけ。(地味によく聞いてんな)とりあえず返してくんない?」
「嫌よ。私、高杉悟の大ファンなの。だから、中に映ってる写真はどれも魅力的でね。……でもね、その中でも気になる1枚があったの。その写真はコレよ」
杏は慣れた手つきでスマホの写真アプリを開いて日向に画像を見せつける。
すると、そこに映し出されていたのは、ミカと一緒に眠っている結菜の写真だった。
日向はそれを見て動揺したが、感情を覗かせる訳にはいかないので、すかさずもう1人の自分を演じた。