ーー翌週の月曜日。
金曜日に本土を襲っていた台風は、明け方に北上して温帯低気圧に変わった。
今は夏の蒸し暑さが私達の身を包んでいる。
私と二階堂くんは、始業前の時間を使って渡り廊下のベンチで話を始めた。
「金曜日は会えなくて残念だったね。電車は動いてたのに、まさか駅行きのバスが止まるなんて……」
「ごめんね。せっかくの誕生日をお祝いしたかったのに」
「仕方ないよ。台風だったのに俺が無理を言ったから」
「ううん、そんな事ない。……ごめんなさい」
私はあれから日向と一緒にいる為に二階堂くんに嘘のメッセージを送った。
ーーそう、私は結局日向を選んでしまった。
両親の事故の件を知った直後という事もあって、どうしても家から離れる事が出来なかった。
罪はそれだけじゃない。
あのまま家に泊まってソファで夜通し彼の手を握りしめていた。
震えた手が彼の心の傷の大きさと判った途端、足に根っこが生えてしまったから。
朝を迎えたら青空が広がっていた。
まるで、昨晩の台風が嘘だったかのように。
結局犠牲になったのは罪もない二階堂くんで、嘘をついた私は今日から罪を背負わなければならなくなった。
「あのっ……、あのね。実は渡しそびれた誕生日プレゼントを持ってきたの」
「えっ、本当?! 早川が俺の為に?」
「全然大したものじゃないんだけどね。誕生日に渡せなかったけど、良かったら……」
「ありがとう。すぐに開けてもいい?」
「うん、いいよ」
結菜は持っている小さなビニール袋を手渡すと、陽翔はラッピングされている箱を取り出して開けた。
すると、中から顔を覗かせたのは……。
「これは、オルゴール?」
「うん。二階堂くんと一緒に過ごしている時間は、このオルゴールの音ようにゆっくり流れているから、プレゼントするならこれかなぁと思って」
結菜が頬を染めながらテヘヘと笑っていると、陽翔はいきなり寸止めしていた気持ちを爆発させるかのように隣から両手を広げて抱きしめた。
一方、急展開を迎えた結菜は頭が真っ白になるほど驚く。
「にっ……二階堂くん?! どどどどっ、どうしたの?」
「……俺、早川から返事を待ち続けているけど、本当はこうやって欲張りたい。ずっとこうしてたいのに、どうしたら早川が距離を近づけてくれるのかなって考えててもわからなくて……」
「あっ……、あのっ。学校でこーゆーのはちょっと……」
結菜は想定外の事態に動揺してると、廊下の向こうからズカズカと床に叩きつけるような足音が接近してきた。
真横で足音が止まった途端、陽翔の身体は何者かの左手によって引き剥がされる。
と同時に、一台のスマホが足元に転がった。
結菜たちは2人同時に引き離した人物に目を向けると、そこには冷血な目で見下ろしている日向の姿が。
「白昼堂々学校でいちゃつくのやめてくんない? 目障りなんだよね」
「日向っ……」
「それとも、二階堂はお預けが出来ないタイプなの? 男のくせにみっともねぇ」
「ちょっと、何言って!!」
「……っく!」
日向は上目遣いで睨みを利かせている陽翔に言いたい事を告げると、背中を向けてズカズカと来た道を戻って行った。
結菜は2人の衝突に気持ちが追いつかなくなってベンチから立ち上がると、吸いつくように日向の背中を追った。
陽翔の目には、「二階堂くんになんて事を言うのよ!」「知らね」など、関係性が深い2人が映し出されている。
陽翔は2人の姿が廊下の角を曲がって行くのを見届けると、唇をかみしめたまま立ち上がって同方向へ向かった。
すると、反対側の曲がり角でその一部始終を見守っていた杏は、現場に取り残されている落としものに気づいて拾いに行く。
陽翔と日向が一悶着していた場所に落とされていたスマートフォン。
電源がつけっぱなしだったので、持ち主を確認する為に写真フォルダを開いてみると、そこに映っていたのは……。