ーー放課後の屋上。
結菜は狐につままれたような気分のままお気に入りの場所から空を見上げていた。

クラスの人気者の二階堂くんが私に『彼女になって欲しい』だなんて、つい真に受けちゃったけど本気なのかな。
それに、どうして私を選んでくれたんだろう。
仲が良かった訳でもないし、接点があった訳でもないのに。


結菜は気持ちが落ち着かなくて、ポケットからスマホを取り出してドキ王を開いた。



『ハルトくんは私が好き?』

『うん、ユイナが好きだよ』



ゲームはAIチャット式だから始めた当初から思い通りの素直な性格に育て上げている。
ケンカをしても謝れば許してくれるし、愛情を注いできた分注ぎ返してくれるから、次第に現実で楽しむ事を忘れてしまった。


やっぱり、二階堂くんに本当の事を話すべきだよね。
ラブレターは私が書いたものじゃないし、楽して彼氏をゲットするのは間違ってる。

……うん、そうしよう。
二階堂くんの彼女になれないのは残念だけど、嘘をついたまま付き合えないよ。


結菜は気持ちが一つに固まると、荷物を持って屋上を後にした。



ーー下校時刻から20分経過。
会えるかどうかわからないけど、二階堂くんを探す為に駅へ走り向かった。

駅方面へパラパラと向かう生徒たちの隙間をぬって、ひとりひとりに目を向ける。
今日の問題は今日中に片付けたいというのが正直な気持ちだった。

すると、駅の改札手前で同じクラスの橋本くんと一緒に帰宅中の二階堂くんを発見。



「……っはぁ……はぁ……。待って……、二階堂くん」



走ったせいで息が上がっていたけど、彼のカバンの端っこを掴んで呼び止めた。
振り返った彼はキョトンとした目を向ける。



「……あれ、早川?」

「大事な……話があって……っはぁ……はぁ……」


「息が切れるほど追いかけて来るくらいだから、どうしても伝えたい話なんだよね」

「うん……」


「うん、わかった。……悪い、橋本。早川と話があるから先に帰っててくんない?」

「了解。じゃあな」



陽翔は橋本と別れると、結菜と相談してファーストフード店に場所を移した。
カウンターでドリンクが乗ったトレーを受け取って、ひとけの少ない十席ほどの一階席に腰を落とす。

ドキ王のハルトくんとはよくデートをしていたけど、まさかリアル陽翔くんとこうして一緒にいるなんて夢みたい。



「初デートだね」

「あっ、うん。そうだね。……いやっ、あのっ、そうじゃなくて……」


「……ん?」



優しい眼差しのまま首を傾けられると、正直これから伝えたい事が言えなくなる。
二階堂くんは直視出来ないくらい輝いていて、リアル王子様感が半端ない。
ドキ王以上のドキドキを与えてくれる。

……なのに、私はこれから爆弾発言をしようとしている。