ーー場所は日向の家。
ミカちゃんを寝かした後の20時半を過ぎた頃、キッチンで食器の片付けをしているとリビングの壁面に設置されているインターフォンが鳴った。
彼はソファから立ち上がってインターフォン前に移動すると、モニターに表示されている人物を確認してから通話ボタンを押した。
「叔母さん……。連絡もせずに家まで来て何かあったんですか?」
『こんな遅い時間にごめんね。今日は大事な話を持ってきたから開けてくれない?』
「わかりました……」
彼はモニター下部の開錠ボタンを押してエントランスの自動ドアを開けた。
しかし、ソファに戻ってきた時の表情がなぜか曇ってるように見えたので、言葉をかける事が出来なかった。
ふと現実に戻ると、親戚との話し合いの場に自分がいてもいいかがわからなくなってしまい、玄関に置きっぱなしの靴を回収した後に洗面所扉の裏に隠れた。
まるで浮気の証拠隠滅をしているような形になってしまったけど、自分でも何故こうしてるのかわからない。
もしかしたら、モニターを見た直後の彼の瞳が孤立感を醸し出していたのかもしれない。
ピンポーン……
インターフォンが鳴って日向は反応して立ち上がるが、そこに結菜の姿はない。
「あれ? あいつ、さっきまでキッチンに居たのに何処へ行ったんだろう」
キョロキョロと見回しながら玄関に向かうが、ミカの部屋の向かいの普段は開放したままの洗面所の扉がしまってる事に気づいた。
しかも、玄関を見たら靴も消えている。
不審な行動が疑問に思いつつ玄関扉を開けると、約2ヶ月ぶりの叔母の姿が立っていた。
「久しぶりね。ミカちゃんは元気?」
「あ、はい……」
「ちゃんとご飯食べてるの? どんなに忙しくても食事だけはしっかりしないと」
「家政婦雇ってるんでメシの心配は不要です」
「あら。じゃあ、今日は家政婦さんがいらっしゃるのかしら?」
「いるはずだったんですけど……、急に見当たらなくなって……」
「えっ、そんな信用のない人を雇って平気なの?」
「さぁ……」
結菜が急遽姿を消した事によって2人の会話は噛み合わなくなっていたが、日向は叔母をリビングへ連れて行った。
叔母はソファに腰を落とすと、日向はキッチンに向かって電子ケトルのスイッチをオンにして食器棚からコーヒーの粉が入ってる瓶を取り出す。
「お茶はいいわよ。ソファに座って」
「正直、俺もこんな事をしたくないんですけど、さっきまで居たはずの家政婦がどっかに消えちゃったから」
「そ……、そう。(結構自由な感じの家政婦なのかしら)2人暮らしにはもう慣れた?」
「あ、はい」
「台風の日に落雷事故で両親が亡くなってからそろそろ1年経つからね」
「周りの人の力添えもあって何とかやってます」
叔母はそれを聞いてホッとすると、スイッチを入れ替えるように姿勢を正した。
だが、洗面所に隠れている結菜は日向の両親が亡くなっていた真実に酷く驚いて手で口元を覆う。
「そこで提案なんだけど、ミカちゃんは再来年小学生でしょ」
「はい」
「そろそろお年頃だし、段々育てにくくなってくると思うの。あなたも仕事があって大変だろうから、ミカちゃんをうちで引き取ろうかと思って」
「えっ……。ミカを叔母さん家に引き取る?」