「うっわぁぁあ、マジかっ! 俺がお前に愛の告白? ぎゃははは!! オタゲーばっかやってるから夢見すぎちゃったんだろ」
「なによ、それっ!! ……真剣な目で言ってたから本音を言ってるかと思って、どう答えようか真面目に考えてたのに」
「んな訳ねぇだろ。これがプロの俳優の仕事。逆にあっさり騙されてくれてごちそーさん」
「何よ、ムカつく! もう帰るっ!」
結菜は装着していたエプロンをむしり取ってカバンにぎゅうぎゅうと押し込んで帰り支度を始めた。
だが、日向はニヤニヤしたまま食事を続ける。
「あれぇ? 自分の気持ちをしっかり言えるようになってる。それもぜ〜んぶ俺様のお陰だね」
「そんなの知らないわよ!!」
「この時間まで付き合わせちゃったから残業代出しとくよ」
「当たり前でしょ!! じゃあねっ!!」
カバンを鷲掴みにすると、ドカドカと足音を立ってながら扉を押し開けて家を出て行った。
あいつに気持ちが逆撫でされたお陰で、今にも頭から蒸気が上がりそう。
ーー帰りの電車内。
すっかり不機嫌になり、イラついた手つきで日向のインスタを開いた。
ストーリーには、本日のドラマ放送分のキャストの雷人くんと一緒に撮った写真が上がっている。
そこにはドラマの制服姿の彼と雷人くんが肩を組んで笑顔でピースしていた。
あいつめ〜〜っ!!
信者はこの笑顔にあっさり騙されているけど、あいつの心ん中は真っ黒黒なんだからねっ。
自分が褒めてもらえないからって、人の気持ちを弄ぶなんて最低。
しかも、先取りサービスって何?
頼んでもない。
一瞬本気に捉えちゃった自分がバカみたいじゃない。
あいつが私に好意を寄せてるって勘違いしちゃったじゃないの。
『バカバカバカバカーー! 黒王子のバカー!! 少し顔がいいからってカッコつけてんじゃないわよ。そうやって天使のように微笑んでも、あんたのドス黒い腹の内を信者が知ったら1人残らず消えていくんだからね!』
気づいた時には怒り任せにコメント欄を連打していた。
もちろん送信するつもりはないから鬱憤を晴らす程度だ。
こうやってコメント欄に地味に気持ちを書き出すくらいなら本人にもっと文句を言ってやればよかった。
しかし、コメントを書き終えてから以前の悪夢が脳裏をよぎった。
そうだ……。
前回、あいつへの悪口をコメント欄に書いたら、電車が揺れて手元が誤って送信してしまってコメント欄が炎上したよね。
あの時はあいつのファンに荒らし扱いされて、びっくりしてスマホの電源を落とさずを得ない状態に追い込まれてしまった。
前回の二の舞を踏みたくないから、隣駅に到着した際に消そうと思って画面をそのままの状態にしていた。
次の駅に停車して足元が落ち着いたので、コメント欄に再び指先を向ける。
ところが、指先が残り1センチと近づいた時、窓際に立っている私の隣にいる学生らしき男性が突然リュックを下ろして私の手元にぶつかった。
男性はぶつかった事に気づくと振り返って軽く頭を下げた。
「あっ、ごめんなさい」
「いえいえ、大丈夫です」
手振りを加えて善人顔でそう言ったのも束の間。
ピコ〜ン……。
スマホから聞き覚えのある通知音が鳴った。
目線を再び画面に落とした瞬間から、あの日と同様通知ラッシュが始まった。
『私たちの王子様に向かってバカって酷過ぎる! 意味わかんない』
『またユイが荒らしに来たの? 一体何様のつもり?』
『ドス黒い腹の内って自分の事でしょ?』
『こいつ、黒玉子って言ってた変人だよね? 悟王子、注意して〜』
私はリュックの彼にぶつかった際に送信ボタンを押してしまったのか、怒涛の非難ラッシュコメントが再び始まりを迎えた。
げげげっ!!
またやっちゃったよ……。
前回コメントを誤送信しちゃった時は散々な目にあったから、今回はちゃんと消そうと思ってたのに。
私は反省と同時にスマホの電源を落としたのは言うまでもない。
一方、日向は結菜が扉を出て行った後、ドラマのセリフを言った際の結菜の表情を思い浮かべると、カアァと顔を赤面させたまま口元を抑えた。
さっきはミカがちょうどいいタイミングで起きてきたから助かったけど、……俺ヤバいかも。
あいつにちょっと冗談を言っただけなのに、どうして女の子の目で見てんの。
ってか、あの瞳に勝てるヤツいるのかよ。