ーー午後20時39分。
仕事を終えた日向はマンションに帰宅すると、部屋中の照明は付けっぱなしで家の中は物音一つすらしない閑散とした状態だった。
ミカは既に就寝してる時間だけど、結菜はまだ勤務時間内。
揚げ物の香りを辿りながらリビングに足を進めるが、そこに結菜の姿は見当たらない。
もしかしてと思ってミカの部屋の扉を開けると、暗闇の室内のベッドで2人顔を向けたまま眠っていた。
「これは寝かしつけで一緒に寝ちゃったパターンか。俺様の世話という重要な任務をサボりやがって……」
日向はやれやれといった感じで見ていたが、2人の寝顔があまりにも平和だったので、ポケットからスマホを取り出して写真を撮った。
カシャッ……
「この写真をサボった証拠にしてやるからな……。おい! 起きろよ! お前はまだ勤務中だろ」
日向は大きな声を出して結菜の肩をゆすると、結菜はパチっと目を開けてガバッと身体を起こした。
「ひぃえええ!! えっ、えっ!! 私……、いま寝てたの?」
「寝ていた時間は休憩時間として扱うからな」
「だっ……だめっ!! あ〜っ! 私ったら、どうして寝かしつけの時に一緒に寝ちゃったんだろう……。ミカちゃんの寝顔が可愛くて見惚れていたら意識失っちゃったみたい」
「あ〜ぁ、お前の寝顔も可愛かったけど?」
日向はスマホを向けて先ほど撮ったばかりの寝顔の画像を見せつけると、バックライトの照明を浴びている結菜はスマホを奪おうとして手を伸ばした。
「やだっっ!! そんな写真を撮らないでよ」
「だ〜め〜。仕事をサボった証拠だから消さない」
「お願い〜! 今すぐ消して〜」
日向はあっかんべーをしながらリビングへと向かうと、結菜はムッとしたままその後を追う。
それから結菜は準備しておいた料理を温め直して、ダイニングテーブルに並べていく。
準備が整うと、イスに座って待っていた日向は食事に手をつけた。
「今日何時まで平気?」
「……もしかして、寝ていた分を残業させようと思ってる? 普通にあと5分後には帰ろうと思ってるけど」
「まさか。友達として言ってるだけ。……あっ、別に男として一緒に居たいとかそーゆー意味で言ってる訳じゃないから勘違いしないでね」
「だからぁ! あんたなんて意識してないか〜ら〜!!」
あの口は毒舌製造マシーンなのかしら。
黙っていれば国宝級のイケメンなのにもったいない。
インスタではキラッキラな笑顔をアップしてるクセに、私への対応が酷すぎる!
501万人のフォロワーはニセの笑顔に騙されてるんだからね。
「実はさ、俺が出演してるドラマの放送が21時からでさ」
「……じゃあ、もうそろそろ始まる時間だよね?」
「そそ。せっかくだから一緒に見ない?」
「私が一緒に観ていいの? 演技している所を隣で見られたら嫌じゃない?」
「逆にどうして嫌なの? これが俺の仕事だから恥ずかしいものなんて一つもないよ」
「……さすがプロ。仕事への割り切り感が半端ないね」
「だろ? 演じてる時の自分はほとんど別人だからね。どんなに辛い事があっても、演技中はもう1人の自分に助けられたりするし」
「へぇ〜」
凄いな。
私だったら一生懸命演技してる所を人に見られたくないなって思っちゃう。
でも、日向は俳優という仕事として割り切ってる。
もう1人の自分に支えてもらいながら……。
ーーそれから、5分後。
私はソファの中央にしゃがみながらドラマを鑑賞した。
そのドラマは、先日撮影現場まで台本を届けに行った時に見たキャスティングだった。
内容は、2人の男性にアプローチされている女子高生の恋物語。
日向こと悟のライバル役は、有名ダンスグループの一員の雷人。
最近は俳優としても活躍している。
彼は黒髪センターパートの髪型で細身のワイルド系で、グループの中でもずば抜けたイケメンだ。
確か、みちるが彼の大ファンだ。
イケメン2人の愛され役として配役されている女優は、1000年に1人と言われてる美少女。
美男美女で三角関係なんて夢のような設定だけに、胸キュンがオーバーヒート寸前に。