苦笑いのまま手を差し出してみたが、日向は腕を組んでプイッと横を向く。
「嫌だ」
「えっ?」
「こんなゲームを褒めるくらいなら俺を褒めろ」
「……え? ちょっと意味がわからない。ゲームを勝手に取り上げた挙句に『俺を褒めろ』と言われてもね。それに、理由もないのにどうしてあんたを褒めなきゃいけないのよ」
「お前は家政婦なんだから俺のモチベーションを上げるのも仕事だろ? 歴代の家政婦は毎日褒めてくれてたのに、お前は一度も褒めようとしないし」
残念ながら、この人は相変わらずだ。
褒めるとは人の行いを評価したりたたえる事であって、人から強制されるものではない。
しかも、家政婦だからという一方的な理屈はへりくつにしか聞こえない。
だが、裏を返せば褒めた時点で満足が得られるのだろう。
その隙をついてスマホを返してもらえばいいやとも思った。
「わかったよ。日向のいい所は……」
「いい所は?」
「かっこいい」
容姿に関しては何かと自信がありそうだったからこう言った。
話が終わればスマホを渡してもらえるだろうと思って再び手を差し出したが、彼は更に手の届かない所へ掲げる。
「それはどのくらい?」
「えっ……。どのくらいと言われても、どう答えていいかわからないよ」
「誰がどう見てもSランクだろ。他には?」
「それ自分で言うかな……。それに、答えたのにまだ言わなきゃいけないの?」
「物足りないからお代わりが欲しくなった」
「何よソレ〜。……あ! あと、妹想い」
「他には?」
「よくわかんないよ。話し始めてからまだ1ヶ月も経ってないし」
「じゃあスマホは返さない」
「何よそれー! ずる〜い!!」
彼はスマホを掲げながら逃げたので走って追いかけるが、どうやっても追いつけないし奪い返せない。
それどころか、ゲームで遊ぶ時間すらなくなっていく。
マスクの下から笑い声が漏れてるし、私をおもちゃと思ってるに違いない。
本当は今日まで良い所を沢山見てきたけど、どうせ調子に乗るから教えてあげない。
結菜がキャーキャーと言いながらヒナタを追いかけ回していると、教室の窓際にいる陽翔は偶然その様子を見かけていた。
「あれ? もしかしてあの2人って仲がいいのかな。教室ではあまり喋ってないし接点がないように見えたけど、意外……」
教室ではほとんど寝ている日向のイメージが強かった陽翔は、2人の仲睦まじい様子を見た途端、心の中の何かがざわめき始めた。